第213話【耳には優しい春夏さんの声】
どこか白く染まる世界。
僕はボーッとして空を見上げていた。
いや違うな、ここダンジョンじゃん。だから、その高い天井を見てたんだと思う。
僕、死んじゃったかな? なんて訳もなくそんな事を考えていると、なんだろう、ちょっとホッとする気配が……。
ああ、安心できる声が響いている。
この声を聞くとなんか、助かったんだな、って実感するよ。
彼女は必死に僕を抱きかかえて、そして叫んでいた。おお、激しいよ、ちょっとこれはあ逆に意識を失いそうになるくらい揺さぶられる。
ここにきて、僕はようやく、ああ、気を失っていたんだって気がついたんだよ。ああ、でもダメだ、ちょっとボヤッとする。
「秋くん! 秋くん!」
もう、食べられるんじゃ無いかってくらいの大きな口を開けて、必死に叫んでいる、近い近いよ、もう僕の鼻の頭なんて春夏さんの口に入ってるよ。『大丈夫だよ』って言って安心させたいんだけど、なんか声が出ない。
「こりゃあ、派手な奴かましたみたいだな、導言の残りカス、解読できねえ、長! こりゃあここ数年単位でも記録的な破壊魔法だな」
とか、したり声で魔法番長は言っていた。春夏さんみたいに僕を心配している雰囲気は無い。冷たいんだな角田さんは。
「ありがとう、助かりました」
今度は、桃井くんの声、誰と話しているんだろう?
「かまわん、それよりコイツを早く回復してやってくれ、早く頼む」
「それはもう大丈夫ですよ、角田様が全体に回復魔法をかけています、段階を置いて不具合を除去している筈ですよ、徐々に回復が開始される筈です、痛覚は僕が消していますから」
「死なぬか?」
「死にませんよ、ちょっと危なかったけど、この中では1番重症ですけどね」
「少し、痛みを感じている様だが、本当に大丈夫か?」
「大丈夫ですよ、珍しく感情が表に出てますね? あなたも大丈夫ですか?」
「妾の事などどうでも良い、コイツは大丈夫かと聞いている」
ああ、そうかリリスさんと話してるんだ。アレ?なんか桃井くん、リリスさんを知っているみたいな話かただな?
そんなことはどうでもいい、それより、
「みんな無事?」
なんとか声を出せるんだけど、自分の耳に入る自分の声の生気の無さに笑える。
「秋くん!!」
「おお、秋さん、目が覚めたみたいですね」
「秋様、皆さんは無事ですよ、残念ながら敵には逃げられた様ですが」
ああそうか、よかった。
「秋様、さすがに凄いですね、でもまだ目を覚ますのはちょっと早いです、もう少し寝ててくださいね」
と言う桃井くんの言葉に、僕の意識は沈み込む様に遠のいて行った。
そうか、なんとかなったんだ。そう思って安心するけど、僕はここに至っても尚、葉山さんの事を気にかけていた。
微睡む意識の中で、彼女は無事かどうか、僕自身の身のことよりもそんな事を考えながら、僕の意識はブラックアウトした。