第211話【絶対死守せよ導きの言霊】
ほんと、はあ?だよ。
本当に前後左右、有象無象に意味不明なんだ。
それに葉山さんが、あの教室でいつも聡明で思いやりがある葉山さんが、わがままって、何を言ってるのって感じなんだ。
でも、ここにきて葉山さんが言ってくれている内容から言うと、知っている葉山と知らない僕との初めての邂逅って事いなるから、やっぱりこの戦いは必然なんだろう、とは思う。現時点での納得は難しいけど。
まあいいや、この辺は後で聞くとして、葉山さんが出てきた以上、ここからは話し合いできるし、この無駄な戦闘も回避できるかも、って思って僕は尋ねる。
「あのさ、葉山さん、率直に言うけど、僕らの事、今は見逃せない? 少なくともここにいる人たちは関係ないでしょ?」
「それもごめん、一応、これも仕事なんだ、ちょっとお金がいる事情があってね」
なんか、いつもの葉山さんだった、ちょっと恥ずかしそうに、そんな言い方をする。
「そうなんだ、じゃあ、相談乗るよ、仕事ってどんな? 僕にも手伝えるといいけど」
僕は葉山さんと戦う理由は無いと思うんだ。もし、彼女の事情でどうしても僕と戦いたいっていうのであれば要相談で、その辺の調整して、僕だけが茉薙の願いというか、その目的に乗ってやればいいんだ、だから、今、ここでやり合うのは、僕にとっても葉山さんにとっても不合理な気がするんだ。もっと違う機会を設けたほうがいいよ。
すると、葉山さんは、
「ほんと?」
って嬉しそうに言う。
ああ、いつもの葉山さんだね、教室で何気無く話しかけてくれる優しい女の子。その葉山さんだ。
そして、僕らの前にひっそりと佇む、今はすっかり普通の宝箱のふりをしている金色宝箱、鉾咲さんのスキルによって生み出された『召喚箱』を指差して、
「あの箱をね」
「ウンウン」
ほらほら、なんでも言ってよ、ともかくこの馬鹿らしい戦闘を回避できるならなんでもするよ。
「中身ごと潰すの」
不可避だった。
いやいやいやいや、それは流石に無理だよ。
僕ら、この中身を、シンメトリーさんを探すのが目的だよ、その人を潰すって、流石に看過できない、協力もできないし、まして見て見ないふりも無理だよ。
「ごめん、無理だ」
即答してしまった。
と言うか、このシンメトリーさんの殺害宣言とも言える申し出に、例えこれがシンメトリーさんで無くても、人を潰すなんて協力できる筈もない。
「だよね、だから私も手を抜けないし、このまま戦闘継続っ事でいいね」
ああ、もう、うん、って言うしか僕に言葉の選択肢は残ってない。
そして、またも、この静けさ、穏やかな話し合いの雰囲気をぶち壊すのは、茉薙だった。
「だから言ったんだよ、いい感じで時間稼ぎされやがって!」
叫ぶ茉薙は、僕を回避。そしてそのまま倒れたままの此花さんとの距離を詰める。
ほんの一瞬の油断、僕は目の前の人が、『茉薙』であると言う事をすっかり忘れていた。
静流さんと話していたから、この凶暴な少年(?)の存在を一瞬忘れていんだ。
しまった!
本気で後悔。
これだけ先行されると、もう間に合わない。
しかし、迫る茉薙と、動くこともできずに、未だ『導言』の完成しない此花さんの絶体絶命の動線の上に入る人がいた。