第208話【今、葉山さんは僕の敵】
ただ剣が飛んで来るなら対処もできるさ、でも、実際はその剣に茉薙の技術が乗って襲いかかって来るんだから、僕は18人の茉薙を相手にしているのに等しい。
今は、僕の安い挑発に、というか茉薙が勝手にそう感じてくれているから攻撃の精度も落ちているからなんとかなっているけど、冷静になって、その技量でそのスキルがそのままこられると相当にヤバイ。
しかも僕は、自分1人で言い訳も無く、ここに倒れている人も守んないとってなるから、余計に不利な感じがする。
救われているのは、茉薙が人質を取って、なんて戦法を使わない所だな。
こいつ、本当に僕との勝負に拘っているのがわかるから、つまりは、僕の為だけに、こんな事態を引き起こしたって気もする。
今は、こんな形で均衡が取れているからいいけど、それはあっさりと数の上の有利でこっちが一気に追い込められていしまう格好になるのは目に見えている。
僕はこの時初めて実感したんだ。
魔法スキルの請負頭の事。
この数の上の戦いでの絶望感。魔法スキルを持つもの同士の戦いでの請負口をいくつか持っているかって言う、そんな戦力差の実感。
確かに持っていない人間からみると、これはやっぱり絶望的になるなあ。
そう思って、僕は、今更ながら15個の請負頭に対して持っていない此花さんが毅然と挑んで行った姿を思い出していたんだ。
そして、こんな時だけど、凄い人だよな、改めて実感したんだ。
本当になんとかしないと。
そう思っていた僕は、思わず、今は倒れてしまっている此花さんを見た。絶対に助けるからね、って思いもあったんだと思う。
その此花さん、多分、背中を斬られていて全く、不自然なくらい動かない。
でもそのフードから出てしまっている唇が動いている。
あ、此花さんの唇って小っさい。って言うか、なんだ? 何かを喋っている。
これは???
詠唱???
そこで僕は直感する、これ、多分『導言』だ。
魔法スキルの持ち主が、そのスキルの発動のスイッチなる言葉。魔法スキルを持つ者だけの特びつな言葉。
此花さんはその『導言』をさっきから、倒されてからずっと発言しているんだ。あれから倒されていからずっと、発言し続けている。
とても長い『導言』、僕は角田さんの言葉を思い出した。大きな魔法は比例してその『導言』も長く複雑になるって言っていた。此花さん、倒されていた訳ではなかった。ずっと戦っていたんだ。決して諦めてはいない。その長く強力な魔法を準備しているんだ。
そうか、この時点でもなお、僕1人になってしまったって考えるも、未ださっきのパーティーアタックは続いているんだ。と言うか続けられているんだ。
そして辛うじて立っているって思っていた花嫁さん、リリスさんの位置どりを見ると、その此花さんを茉薙から守ると言うかその背に入れる視界になっているんだ。
あ、土岐と目があった。あいつの目もまだ死んでない。
そして、僕は次の瞬間に後悔していた。
「茉薙、まだみんな生きているわ、起死回生の一撃を準備している、油断しすぎよ」
と茉薙の顔して、葉山静流さんは言った。
「わかってるよ! うるさい、静流! わかってたさ! そんなのさっきから気がついていたさ」
剣の群れが意識も無く倒れている相馬さんを襲う。
なんとか間に入って相馬さんをかばう。ヤバイ、こっちは完全に気を失っている。流石に全部は防ぎ切れず、何箇所かは斬られる。相馬さんは守ったよ、斬らられたのは僕。
茉薙はわかってない。未だ生きて計画を実行している人間とそうでない人間の判別が付いていない。気がついていたのは茉薙の中の静流さんだ。
そして僕は気がついている方を、僕の多分、友達だと思っていた静流さんを未だ味方だと思って起こしてしまったんだ。
そうだ、彼女もまた僕を敵だと認識しているんだ。自分で確認した事なのになんか胸が痛んだ。