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第206話【静流の中の茉薙と茉薙の中の静流】

 力なく倒れてゆく蒼さん。


 くっ…!


 声も出せない僕に蒼さんは言った。


 「見ましたか、お屋形様」


 この姿、そしてこの状態で蒼さんは強い目で僕に問いかける。


 「え? あ、ああ、うん」


 そんな彼女に対して、本当にこんな間抜けな返事しかできない。情けないって本心から思う。でも蒼さんはそんな僕に笑って言うんだ。


 「そうですか、良かった」と安心して、そして、「ご武運を」と言って倒れた。


 そんな姿を見て、


 「忍者、弱ー」


 と、茉薙は言う。笑って言った。そして、


 「まあいいか、これで漸く一対一じゃん、もう心置き無くやり合えるな」


 と言ってから、まるで勝ち誇るみたいに僕に向かって忠告する。


「ほら、呆けてないで、必死に守らないと、お前も切り刻むぜ」


 彼の忠告通り音も無く僕に刃が迫る。


 警戒はしていたから、蒼さんが見せていてくれていたから、茉薙の視線とそしてその気配で僕はその攻撃をなんとなく予想できた。


 そうか、わかった、これがみんなの攻撃を防いで、そして斬り刻んだ正体だ。


 僕は蒼さんがその身を犠牲にして襲われた瞬間を見せてくれていたからね、受けない、弾かないで、避ける方を選んだ。でも一回その威力ってのも知って見たかったら、一本は弾いみた。


 重い。蒼さんが斬られてしまう訳だ。


 ただ、飛んでいる剣ならその自重なら、特にどうと言う事もない。人の体に当たったにしても、よほどの急所か、それとも角度とかでもない限り、まさに当たってもどうとういうこともない。


 でも、この茉薙の操る剣には人の振る重さがあるんだ。


 浮いた剣に、僕や相馬さんの着ているジャージや、蒼さんの楔帷子、此花さんのローブやまして土岐の装備する鎧を切り裂く力は無い。


 だけど、この茉薙の操る剣は、茉薙自身が振るうのと同じ力、達人とか剣豪とかが振るう剣の力がある。まさにその剣一本一本に人を切り裂く力があるんだ。


 だから蒼さんは防ぎきれなかった。それを僕に見せてくれたんだ。


 僕の周りに、いや、茉薙の周りにも、その数十本の剣が浮かんでいる。

 それはまるで川を泳ぐ魚の様に、僕らか見える面積を少なくして、時折位置を変えながら漂っている。


 なるほどね、確かにこれは剣の世界。というか結界だね。ただの刃ではないからソードワールドって言い切っていたんだね。


 「まあ、ここには俺とお前だけしかいないけどさ、攻撃の手はこれだけあるんだ、悪いけど俺の勝ちだ」


  と言った。余裕そうに話すけど、お前、もうすっかりフード脱げてるじゃん。

 その顔を僕は初めて見た。


 そこには葉山静流さんその物がいたんだ。


 その顔は葉山さん、そして委員長。


 いつも心配して僕に話しかけてくれるとってもいい子。ダンジョンお疲れって言葉を教えてくれた面倒見の良い女の子、僕が困っているといつも声をかけて、時には手を差し伸べてくれる優しい子。その葉山 静流さんがそこにはいたんだ。


 驚いちゃったよ。


 本当にびっくりした。


 彼女は茉薙で、茉薙は彼女なのかな?


 でも、違うんだよ。


 うん、違う。


 そう思いたいってのは心の中でわかっているけど、絶対に違うんだ。


 葉山さんの優しさが、僕に向けられていた穏やかなあの暖かな気持ちが嘘って事ではないってなんと無くわかるんだ。


 顔はそうで、多分、体もそうだと思う。背格好もそっくりだからね。


 でも彼女とは中身が違う。だからその僕の良く知る彼女から外に出ようとする表情とか、仕草とかが全く違う。


 人間て、それだけで別人になってしまうんだ。いくら顔が同じでも声が一緒でも、僕には茉薙と葉山さんは全くの別人に思えたんだ。


 「なんだよ、大して驚かないな?」


 まあ、花嫁さん、リリスさんの言葉と、相馬さんの視点を教えられていたからね。驚いてはいるけど、パニクったりしない。


 それに、以前、学校で、誰もいなかった教室で葉山さんが話してくれた事がさ、全く符合するんだよ、だから、そういうことかって思えるんだ。あの時の『今は2人』って言葉も、今は意識のない2つの命って事で片付くもの。そう、相馬さんも言っていた。『意識は2人』ってそう話していた。


 彼女、葉山さんが纏っていた悲しみって、つまりはそういうことだったんだ。


 もちろん、何もわからない。


 でも、以前から春夏さんが僕に言っていた、『あの人はダメ』って言っていた事が今ならわかる気がするんだよ。


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