第204話【広がり続ける『剣』という名の世界】
僕は大げさに一回下がって、そして再び茉薙との間合いを詰める。
いや、別に必殺の一撃を加えようなんて思ってないよ、なんて言うかな、気分でいうなら、活性の高い猫の前に猫じゃらしをポンポンしている気分かな。ほら、茉薙、喜んでる。
でも、もう逃げ道は無いぞ。
ハッキリと僕は、いや、僕らは勝利を確信していた。
というか、僕らの行動の上には単に通過するだけの勝利しか無いってその時は僕だけでえなく誰もが思っていた。本当にギリギリとか何とかとかじゃなくて、ほぼ作業みたいな上での勝利。そう思ってたんだよ。
でも、ここは北海道ダンジョンなんだよ。
何が起こるかなんて、その瞬間までわからない。
それは、このダンジョンの事だけでなく、そこに参加しているダンジョンウォーカーもまた含まれているんだよね。
その事は、僕自身が良く知っている筈だったんだ。
だって、僕も、僕自身もいつもそれに助けられたり、他の、敵対するダンジョンウォーカーに与えていたものだからね。
そして、それは茉薙も例外じゃなかった。
この窮地においてのこの余裕。
これだけの波状攻撃を喰らおうとしているの、全く危機感の無い態度。
そして、僕は嫌な事を知ってしまう。
ああ、そうか、こいつ、誰かに似ているなあ、って思ってたんだ、直感みたいなものだけど、根拠なんて無いけど確信したんだ。というか感じた。
こいつ、僕に似てるんだ。
顔とか見えるわけじゃ無いよ、未だ奥深くフードの中の表情は見えないけど、まるでこの危機の中で遊んでいるよな、その風体は、僕自身が幾度となく周りに与えて来たものだったんだよ。
ちょっと前ならわからなかったけど、今ならわかる。
性格とか背格好とかそういうのではなくて、もっと中身の濃い所。薄めようもなく隠すこともできない自分の自分で嫌いな所、そんな所、たぶん僕の中で1番無様で醜くて、なるべくなら避けて歩きたい所、そんな僕と言う人間をはみ出そうとしている、なるべくなら引っ込めてそのまま蓋を被せて眠っていて欲しいそんな箇所が僕に似ている。
特に、嫌になるくらい刃物を恐れていない所なんてよく似ている。僕のイヤな部分で、ダメな処。いつも母さんに怒られる所。そんな部分を見せつけられている気分になる。
だからだろうか、とてつもなく嫌な予感がしたんだ。
多分、茉薙の余裕はハッタリでも何でも無い。
寧ろ、この状況を待っていた気がする。
って事はだよ、
これ、ヤバイ。
そう思ったんだ。
そして、雷は迸った。
僕らの攻撃も実行された。
タイミング、位置どり、全てが完全な者として動いた。もちろん油断も隙もない。
そして、大きな剣同士の弾く音、弾かれる音、金属が生み出す大きな和音の後には、みんな倒されていると言うありえない現実が待っていた。
ほんの一瞬で、一体何が起こったんだ?
「みんな!」
って叫ぶのが精一杯だった。
茉薙はその倒された僕の仲間の真ん中に立って言う。
「これが俺の『剣という名の世界』だ」
そして、自分の両手に持っていた剣を放しててもその剣は落ちる事なく、中空に浮かんだ。
茉薙は言う。
「ようこそ、俺の『ソードワールド』へ」
続けて、
「招待者が君だけなんて、残念だな」
多分、そんな事を言っていたんだと思う。
でも、その時の僕は、そんな言葉はまったく耳に入ってなくて、その時には既に自分から茉薙に突っ込んで行った。
自分自身の油断を呪うように、みんなを助けなきゃって思いながら、それでも冷静に、この状況を把握しようとしていだんだ。