第200話【強襲!! 葉山茉薙】
一体、なんの言いがかりだよ、さっきからペラペラ、一体こいつはなにを言いたいんだ?
「お、いいね、その顔、そうそう、それでいいんだよ。俺たちはさ、終生のライバルって形がいいんだよ、ほら、前にも話たろ、お前はさ、危ういんだよ、お前はどうかはわからないけど俺はお前をよく知ってるんだよ」
ライバル宣言に続いて、近親者と認定される。本当に身に覚えがない。
「だって、好きだろ、戦うって事がさ」
「ないよ、戦うのは好きじゃない」
「殺すの大好きだろ」
「絶対に殺したくない」
「北海道ダンジョン最高だろ?」
「うん、それは認める」
「だよな、いくら殺してもいいんだから。斬り放題、やりたい放題だよな」
「斬らないし、やりたい放題ってこともないだろ」
「斬ってったろ、ぶっ殺そうとしていたろ、あの忍者、ムカつくよな隙とか突いて襲いかかって来るなんて、正々堂々とぶっ殺させろよって思うよな」
多分、それは蒼さんの事を言っているんだと思って、で、ちょっとムカついた。
「あれは事故みたいなもんだよ、その後必死だったんだ」
すると、また茉薙は大笑いして、
「日和った事言ってんなよ、お前は俺と一緒なんだよ、システムの上に造られた『殺人鬼』なんだよ、良かったよな、いくら殺してもここならなにも言われない、いくらでも生き返えせる、殺し放題だ、そして自分の欲望でそれは正当化できる、だから俺はお前と向かい合えるんだ」
ダメだ、イかれている。どこまで行っても平行線だ。
意見が合わない。意識が違う。そして、こんなヤツ野放しにできない。
そして、確信する、こいつきっとスキルジャンキーだ。自分の力に酔っているのがわかるんだ。もちろんさっきの九首と違って、この茉薙には歴然とした戦力があるのもわかる。こいつは相当に強い。
ただ、わからないのが、こいつ、この茉薙と言うこの男が誰かって事なんだ。
絶対に会った事があるって同時に絶対に初対面だって言う自信もある。
でも茉薙は僕に『出会っている』事を何故か必死に言って来る。
自分の頭から出て来ている事だけどこの矛盾した二つの考えは適当って気もしているんだよ。なんかしっくり来る、矛盾してるけど、納得できる感覚的に、だから、もうわけがわからないよ。
すると、茉薙が言うんだ、まるで呟く様に、
「止めないよ、もう始まったんだ」
そして、まるでここには居ない誰かと言い争う様に、
「もういいだろ!、いつかはこうなるって覚悟したんだろ?、それが今日だったんだよ、もう諦めろよ」
まるで独り言だ。茉薙は自分自身に語り続ける。側から見ていると、なんの冗談だ?って思うくらいの勢い。でも真剣で全く滑稽さが無い。
此花さんも笑っていないもの。ここ、この言い合い、じゃ無いな、自分に向かって喋り続けている、一方的に、周りの目なんて気にも留めずに。
「バカ! もう遅いんだよ!」
「俺は嫌だからな!」
自分の胸の辺りに罵りまくっている。
「なあ、もう、決めた事だろ?」
激しく、そして時折穏やかに言い聞かすように。
ただ、明らかに違うのは、僕に向かって話している時よりも、とても親しげに、そして、遠慮もなく親や兄弟に当たり散らす様にいない誰かと、いや自分の中の誰かと喋り続けているんだ。
「ダメだね、今日は俺の番だ、絶対に譲らない、あいつがいるんだ、戦って殺すんだ」
その言葉の最後に、再び床を蹴って僕に向かって飛んで来た。短い方が来る。
ほら、ここから又4連撃、この終わりに僕も差し込むよ、このまま受け続けるつもりもない。ここからは反撃させてもらう。
一瞬の連撃の隙をついて僕も一つ入れる。
難なく片手の短い方で受けられる。もちろん想定内。
ん?
剣が斬れない。
受けられるのはいいんだ。
というか、この受けは読めていた。読めた上での攻撃だった。
これは相手への攻撃じゃないんだ。茉薙の剣を狙った攻撃だった。
いち早く敵を無力化する。もちろん、これ以外に武器を持っていないとは限らないけど、1番早いやり方で、いつもの僕のやり方だった。
もちろん、相手を直接攻撃して動けなくなるくらいの怪我を負わせる方法が確実だけど、僕はダンジョンに殺し合いに来ているわけじゃないからね。こういうやり方が定石になるんだよね。それにしてもなんでこの剣で茉薙の剣が折れないんだろ?
おかしいな? なんか腑に落ちない。