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第191話【童話世界の魔法使い】

 その男は聞いてもないのに名乗り始めた。


 「俺の名は九首 緑郎、今はクロスクロスに身を置いている、元黒の猟団の人間だ」


 そして名乗り終わる頃には、概ね土岐が九首さん以外の者を片付けてしまっている。


 やっぱり弱いなあ、クロスクロス。


 「まあ、いい、こいつらに期待はしてないからな、俺1人で、お前ら相手にするのは簡単な事だ」


 強がりじゃあなくて、本気みたいだ。土岐の技量を今目の前で見てそういう事を言えるのだから、相当な自信だ。流石、スキルジャンキー。自己陶酔で悪酔いしているみたい。


 そして、九首さんは、懐から細く小さい、コンダクターの持つ指揮棒みたいな杖を取り出して来

た。英国式の本格的な魔法使って姿だね例のクロスクロスの鎧を着ていたから、普通に直接攻撃系かと思ったら、以外に魔法スキルの持ち主だった。


 ちょっと驚いている僕を見て、何を思ったのか九首は、


 「なんだよ、狂王さん、驚いたのか? 俺もそこの此花と同じ魔法スキルの持ち主だよ」 


 と自慢げに言う。


 「ただ、そこの出来損ないとは違うけどな」


 そう言うと、自慢する魔法使い、九首は、その背後から『請負頭』を15体出して、空中を浮かび上がらせる。


 これ、あの術者と同じ魔法を唱えることが出来るコントラスヘッドだね、知ってる、角田さんも椎名さんも出していた。


 「まあ、俺くらいなると、これだけの数のコントラストヘッドを出せるようになるんだがね、もう、圧倒的だろ」


 確かに、初めてこの数を見れば、「おお!」とか「凄い」とか言ってしまえるけど、角田さんと椎名さんの戦いを見た後では、ちょっと寒い。見た目的にも密度的にも。


 そして、自己陶酔真っ最中な九首は言う。


 「なあ、何か気がつかないか?」


 いきなりそんな事言われてもなあ、酷いタレ目に、あ、鼻もちょっと曲がってるなあ。くらいしか。


 どうしよう、指摘するかしまいかを悩む僕を見て九首は、


 「なあ、此花、お前もコントラストヘッド出してみろよ、ほら、早くしないと、この15を超えるコントラストヘッドに氷漬けにされるぞ」


 とか言っている。


 分かりやすい挑発だなあ。でも此花さんは動かない。


 その微動だにしない此花さんを見て、九首は大きな声を出して笑った。


 「出さないの? ププ、出せる訳ないよな、お前、コントラストヘッド持ってないもんな」


 って大ハシャギ。


 不愉快な笑い方する人だなあ、って思った。


 「ごめん、ごめん、お前、この時代の魔法使いじゃないもんな、古き良き時代の魔法使い、なんの工夫も無く、応用も無い、ただ1つの口で魔法を打ち出すだけの、なんて言ったけ、ほら、お前がD &Wでイジメられていたあの呼び名だよ、そうそう、『Witch in a fairy tales』だったっけか、『童話世界の魔法使い』、このダンジョンじゃ、中階層すら役立たず、ってな」


 そうか、そうなんだ。


 言われてみると、此花さん、一回も請負頭を出してないよ。


 確かに魔法スキルの打ち合いなら、一個でも多くの導言葉が発言出来る口と言うか顔があった方が圧倒的に有利になる。と言うかそう言う請負頭の数で物言う戦いを僕は最近見たばかりだった。あの浅階層で、椎名さんと角田さんの戦いで。


 たとえ、魔法そのものは打てても、数の上の有利は得られない。


 このダンジョンの魔法スキルを持つものとして、それはある意味決定つけてしまえるとも言える。


 そして九首は言う。


 「ほら、此花、打ってこいよ、たった一回だけのお前の発言、全部消してみせるからさ、さあ、正々堂々と勝負しようぜ」


 そんな九首の話を聞いている僕は、一瞬だけど、その目深にかぶったフードからチラリと見えた此花さんの顔は、ほんのちょっとしか見えなかったんだけど、その唇が、笑みの形に歪んでいたんだ。


 笑っているんだ、此花さん。あ、ちらっと見えたの顎周りだけだけど、顔ちっさいな、此花さん。


 「九首が私と勝負って、笑える」


 此花さんはポツリとそんな言葉を呟く。


 「なんだよ、お前、請負頭も出せない魔法使いが、俺を笑えるのか?」


 今度は割と冷静に、挑発というのものでも無く、九首は言う。


 「あなた、氷系の第4位の魔法で、私とやり合うつもりなんて、笑える、あなた、6個の呪文しか唱えられないじゃ無い、それに、導言の発言、噛まなくなった? 成功率は上がったの?」


 僕と話していた時と同じよトーンだけど、込められている気迫が全然違う。


 多分、だけど、此花さん、怒ってる。


 直感的だけど、今、この場にいて、僕はこの九首と言う男よりも、此花さんの方が、とても危険な人間だと、そう感じてしまう。請負頭の数とか、魔法の種類とかそう言うのでは無くて、もっと人としての根本が、その深さが、此花さんはちょっとヤバイ人って気がしたんだ。


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