第190話【強襲! 九首! 敵対する忍者再び!!】
その花嫁さんの腕を無造作に掴んで、土岐は、
「普通の腕っぽいよな、安眠作用があるようには見えないけどなあ」
とか言いながら、土岐は花嫁さんの腕や手を取り具に観察している。「もう良いか?」と言われて慌てて「あ、悪い」とか言ってやっと離した。なんだろう、すっかり仲良しか? この2人。
「いいなあ、私も眠って見たいです」
と相馬さんが言う、ほんと、なんでも食いつくな、この子。
「お前には無理じゃな」
とアッサリと言われて、
「ええー? なんでですか?」
と食い下がるも、花嫁さんはそっと相馬さんに近づいて、耳元で何やら告げていた。
あ、相馬さん耳まで真っ赤だ。
「え、何? 何を言われたの」
って思わず聞いてしまって、
「そんな恥ずかしい事言えません」
そっぽを向かれてしまう。え? だって気になる。でも相馬さんから聞くのってちょっと困難だよなあ、って考えて、その辺は何があったか土岐にでも聞いてみよう。
なんと無く此花さんを見てみると、
「私はこの手のネタには興味はないので戦線を離脱します」
と自分のテリトリー外を宣言して既にこの話題から離れてしまっている。
「うわ、体、軽!」
と土岐が自らの体の快調を喜んでいる。と、その時、相馬さんの目の前で何かが弾けた。
「潜伏です、親方様」
いつの間にか、相馬さんの前に立ち、放たれたナイフの様な投擲武器を、再び弾きながら蒼さんが言った。
うわ、びくっりした、いつの間に!
て、思ったら、僕も相馬さんの前に剣を出してた。意識はないけど、攻撃が見えた。
このダガーみたいな武器、無音で飛んで来ていたから、もし仮に蒼さんがいなかったら、たぶんだけど相馬さん大怪我していたと思う。しかもこの二発目は、多分、目標に当たる前に放たれて言えるから、トドメの一撃だと思う。やることがエゲツないなあ。
ここ『厭世の奈落』って、この階層の1番奥まっている、所謂、行き止まりの室内だからさ、壁床天井が何処までも続く一直線で、隠れる所なんてどこにも無くて、一体何処にそんな奴が、って思っていたら、いやいやいや、
僕ら囲まれていたね。
気がついたら、数は僕らの3倍くらい。だから、16人くらいかな、ここまで完全に潜伏されていると全然気がつかなかったよ。気配も、影も無い。本当に中空から出現するみたいに現れたんだ。
「申し訳ありません、親方様、あの男が投擲するまで、全く気が付きませんでした」
僕の見つめる方向に、1人、ちょっと体の大きな男がいる。その服装も雰囲気も他の人間とは違っていた。
と言うか、僕は蒼さんにも気がついてなかったから、二重のビックリだよ。
その男は言った。
「久しぶりだなあ、蒼」
「知り合いなの?」
「はい、古い知り合いです」
僕の前に、まるで僕を庇う様に立つ蒼さんは黒い双剣を構えて、既に臨戦態勢に入っている。と言うか一瞬たりともその前に立つ男から気を抜いて無いのがわかる。
「お屋形様は、我らの成り立ちについてご存知だと思われますので、隠さずに言います、あれは多月の分家、九首の家のものです」
ああ、そうか、と言うことは、
「元、黒の猟団の人って事だね」
と尋ねると、
「そうです、私が来るまで、彼がかつて黒の猟団と呼ばれた組織の頭でした」
なんか複雑そうだ。
「なんだよ、蒼、俺の持って来る仕事に不満足で、そんなチンチクリンに付いて行ったのかよ、情けねえな、本家のお姫様はよ」
カラカラと乾いた桶が転がるみたいに笑う。