第189話【花嫁が提供する安眠の条件】
そっか、ダンジョンのブローアウトはここから始まったんだなあ、って、僕はその様々な彩に変化するこの場所を見つめてそう思っていた。
それでか、それで、少数だけど、地上に出たモンスターが無害化するのは、多分生存戦略の1つかもしれない。
聞いたことがある、丁度、学校の授業で授業の内容を脱線した先生が言っていたことだ。人に飼われたキタキツネが、たった数代の配合で、毛の色を変え、性格を変えてぺット化してゆく様なものかな? 人の目に映えて、美しく、愛らしく変化をして人間社会に適合して生き残って行く。
先生が言っていた、野生動物のペット化。この現象は、他の動物にも当てはまるらしい。と言うか、生存戦略、生存適正って言ってた。
モンスターもそれと同じことが起こっているって事なのかもしれない。
どうしたって、人の社会に紛れてしまうと、人に寄り添ってしまうのかな?
もちろん、これは僕の勝手な考え方で、実際はもっと複雑で、実は、とっくの昔にこのダンジョンの研究の第一人者、佐藤和子博士あたりに解明されているかもしれないけど、多分、この論理は間違っていないまで行かないけどいい線いっているとは思う。
そして、最近言われるようになってきたハイエイシェントとかエイシェントとか言われる、所謂、ここにいる花嫁さんとか、この前のラミアさんとか、彼女達は多分、違う気がする。なんと無くだけど、それはきっと人間の力なんて凌駕しているせいもあって、何よりもそれぞれが自分の都合で動いている感じがしてならない。
僕はそんな事を考えながら、今は仲間の様に僕らに接してくれる『悪魔の花嫁』さんとジッと見つめていた。
「どうした、狂王、妾の顔がそんなに珍しいのか?」
「あ、ごめん」
思わず謝ると、
「お前は、もっと大切にしなければならない者があるだろう、未だ気が付かず、いや、思い出さず、このままと言うのも、今の深度だからだぞ、これから階を深めて行けばそのままという訳にも行くまい」
これは僕に言っている。
花嫁さんが僕に言っている事だ。
その言い方に少しばかりの違和感を覚えた。だって、彼女の言い方ってまるで初めて会った人間に言うような言い方じゃないんだ。前から知っている人に言うみたいな言い方。僕の気のせいだとは思うんだけど、そう思ったらなんかシックリこない。
何を言われて、何を言いたいのかわからないけど、どうしてだろう。僕は少し寂しい気持ちになっていた。
怒れれているわけでもないのにな、何か悪いと言うか、すまない事をしている気持ちがあった。叱られているみたい。
「なあ、真壁」
そんな僕に土岐が話しかけて来た。
「いや、大した事じゃないんだけどな、今の内にだれかに伝えないといけないと思ってな、俺の勝手な使命感みたいなもので恐縮なんだが」
なんて前置きをしてから、
「俺、睡眠浅い方なんだけど、なんかスゲー眠れたわ」
快眠の後の寝起きみたいなスッキリした顔して、土岐は言った。本当に大した事じゃなくてびっくりだよ。
「ほんの数分だよな、でも、凄い寝れた、こんなに頭が冴え渡っているのって、ここ最近ないな、睡眠ってのはやっぱ大事だな」
すると、花嫁さんは
「そうか、よかったな」
特に喜んでいる風でも無く土岐に告げた。