第187話【ギルドと通じるモンスター達】
しばらくは無言で、土岐と『悪魔の花嫁』は見つめ合う。その時間は長くのあり短くもあって、おそらくはお姫様抱っこされる騎士と、抱っこする悪魔の花嫁とでは、後世に語り継がれるなんらかの意思疎通をなし得るための時間を、2人は見つめあっていた。
そして急に我に帰る土岐は尋ねる。
「ここ何処だ???」
ジッと『悪魔の花嫁』の瞳を見つめ彼は言った。
「私の腕の中じゃが」
花嫁は臆面もなく答える。
「いや、そう言う事じゃなくて、この場所の事、地理的情報を尋ねている」
「ダンジョンじゃ」
「それはわかってるんだよ、だからここはダンジョンの何処かで聞いているんだ」
「ならば最初にそういえ。ここは地下21階『厭世の奈落』じゃ」
「げ、『厭世の奈落』って言えば近づいちゃ、ダメな所じゃなかったか?」
「こうして離れて見ている分には無害じゃ」
「そうなのか?」
「そうじゃ」
2人の会話。普通の話している分には、当たり前の会話なんだけど、お互い真顔で、抱っこされている方としている方の会話だから、見ていて何かおかしい。此花さんはさっきから込み上げてくる笑いをなんとか抑えている。肩がプルプル震えてるもの。
「それにしたって、こんな場所、来る奴なんていないだろ?」
「そうじゃな、余程、用事のあるものしかくる事はないじゃろ、それに、ここから地上に向けて、ダンジョンが吹き出したと知るなら、感慨深いものがあるじゃろ」
「マジか、ここからブローアウトが起こったのか」
「そうじゃ、人間側に、その事を知るものは少ないからな、知る人間はそうはいない、だが我々は見ていたんじゃよ、何も出来ずに、なすすべも無く」
花嫁さんはそっと土岐を下ろす。
「あ、ありがとう」
と礼を言う、流石騎士だよね、礼儀正しい。
「どうなってる? こいつ敵じゃないのか?」
今の今までその敵に抱かれてグッスリ寝ていた男が、まるで敵意のカケラもなく、ただ立っている花嫁さんを指差して言う。
「うん、実はカクカクジカジカ」
「それじゃ分からねーよ」
めんどくさいなあ、っと思いながら、一応のここまでの経緯を説明する。
「なんだ、そう言うことか」
と土岐は言ってから、
「やっぱ、ギルドとこのダンジョンのモンスターが繋がっているってのは本当だったんだな」
とか、怪しげな事を言う。
「ちょっと待ってよ、それじゃあ、私達がモンスターの仲間みたいじゃない。そんな事!」
流石にそんな事を言われると、現ギルドの構成員としては黙ってられないみたいで、相馬さんは声を荒げる。お前、土岐、起きて早々に相馬さんを怒らすなよ。
すると、土岐は意外に冷静な言い方で、
「悪い、言い方が悪かったな、言い直すよ、モンスターの中にはギルドに協力して、このダンジョンの管理をしている奴がいる、って言った方がいいな」
そんな言い方をする土岐に対して、相馬さんの勢いは一応、納得して治る。
「うん、まあ、そう言ういいかたないいや」
それはちょっと驚いた。
「そうなの? 相馬さん」
答えたのは鴨月くんだった。
「組織とか、そう言うことではないんです、僕は、この『悪魔の花嫁』と言うデーモン系のモンスターの人に会ったのは初めてですが、こうして特に、シリカさんやシンメトリーさんに協力を求める人と言うかモンスターがると言うことは聞いていました」