第186話【騎士、覚醒!!】
僕に慣れてくれたのか、ずいぶん話す様になってくれた此花さん。
彼女を見ると、どこか遠い目をしてる感じ、その声を聞いて僕が勝手に思ってるだけだけどね。目深なフードで顔も見れないから、そんな感情を彼女から感じとっただけかもしれない。、
「それに、笑っていると、嫌な事考えなくなるじゃあないですか、フフ」
そう言って笑った。
最後に付け足す様に言った彼女の一言が妙に僕の心に残った。
そして、もう1人はっと。
グッスリだね、今だに熟睡モードだよ。ダメだ、今現在、土岐は数に数えなくていいや。
「相馬さん、シンメトリーさんは、なんて言って君たちの制止を振り切って、このダンジョンに入って言ったの?」
「はい、何か大変な事になるって言ってました、シンメトリーさんはあまり表情を出さない人だから、何か気になって、私は着いて行ったんです」
なんとなくわかってきた気がする。
シンメトリーさんは無理に花嫁さんに着いて言ったわけじゃあないんだ。多分、だけど。シンメトリーさんと花嫁さんの目的って合致する。
「ちょっと聞きたいんだけど、いい?」
僕は花嫁さんに話しかける。
「構わんぞ」
「どうしてシンメトリーさんを連れて言ったんですか?」
「穴が空いたからじゃ」
と花嫁さんは言った。
「穴?」
「そうじゃ、穴じゃ」
そう言って、花嫁さんは僕らの立つ位置から、この『厭世の奈落』の奥の方を指差す。
確かに、この広い床が壁際に崖みたいになっていた、そこからこのダンジョンの上下に長く果てなく続く穴があるよなあ。
「あの、上から下まで続く排気口みたいな穴ですか?」
「いや、あれは元からじゃ、そうではなくて、この中空の壁、天井、床、至る所に穴が開くのじゃ」
いや、穴なんて、なかったよね。それでも僕は彼女の指差す方向に目を向けて見た。
一瞬だった。
ほんの一瞬、見えた。
グネグネと暖色系の様々な色に変化する壁に一瞬、光が射したんだ。
そしてその光が射す方に見えたのは、街並みだった。
え?見間違いかな????
「あれ! 札幌の、大通りの街並みだ!」
そう叫ぶ様に言ったのは相馬さんだった。流石に目がいい。
僕はどこかまでは特定できなかった。でもどこかで見た街並みだったから、相馬さんの言葉に納得したんだ。そうだ、赤いテレビ塔も見えたから、きっと大通り周辺の街並みだ。
まるで、急に壁面に小さな窓ができたみたいに、一瞬だけど、確かにそんな光景が見えたんだ。でも、何か引っかかってしまう僕がいるのも事実で、本当にそうだろうか?
確かに札幌の街並みなんだけど、ちょっと色味というか、雰囲気が違う気もしたんだ。
いや、確かに相馬さんの言う事は正しいけど、何か違うんだよ。
多分、その違いはほんのちょっと。
ほんのちょっとのその相違が僕にとっての違和感になって、半信半疑にさせてくれる。
「でも、どうして、ここから札幌の光景が見えたんだろ?」
鴨居くんがそう呟く。
確かにその通りだけど、僕は以前、シリカさんが空間を繋げて、ラミアさんを逃がしてくれるのを見ているから、驚いているけど、それほどでもない。
「ん、あ」
と、突然、土岐が覚醒した。
物凄い、爽快な顔して、目なんて『バッチン!』って効果音が聞こえるくらいの勢いで全開する。
多分、今の状況を飲み込んでいるのだろう、石化したように固まった体とは対照的に首は激しく周囲の状況を理解しようと視界による情報の獲得に専心している、笑っちゃうくらい。
そして、そのまま上を見上げると、「起きたか」と恭しく呟く花嫁さんと目が合う。