第182話【悪魔の花嫁が失くしたモノ】
フアナって、あのラミアさんの事だよね、そのラミアさん既婚者だった。夫いるんだ。
余計な情報で驚いている僕なんだけど、そんな僕を置いてけぼりにして花嫁さんは話を進めてゆくんだ。
「実はな、失くしたものがあってな、それを探しているのだ」
ハイエンシェントモンスターの失せ物って言われてもその前に僕には言うことがある。
「その前にシンメトリーさんをどこに連れて言ったのか、と言うより返してください」
率直に僕は言った。
まず話はそこからだと思う。
すると花嫁さんはパッと明るい表情になって、と言うか今までも割と気さくに話してくれていたんだけど、なんか悩んでいるっていうか、影があるって言うか、まあモンスターだし、『悪魔の花嫁』だし、翳りくらいはあるかって思ってたけど、僕のその一言を受けて、その翳りすら無くなって、普通の美人になって、目なんてまんまるくして、僕の顔を見つめている。ほんと驚いた、普通の人と変わらない表情を持っているんだ。
そして、喜びを隠しもしないで彼女は言った。
「おお、シンメトリーを探しているのか」
「そりゃあそうですよ、今、ダンジョン大騒ぎで探していますよ」
「ならば、都合が良い」
と言って花嫁さんはさらに声を明るくして微笑んだ。
「実はな、失くしたものとは、そのシンメトリーなのだ」
ああ、それは目的が一緒だね、って言いかけて、
「え? シンメトリーさんってあなたが攫って行ったんじゃないんですか?」
「妾が? シンメトリーを?」
と言われて、そうだよね?って思って相馬さんをみると、相馬さんは、
「だって、『こいつは暫く借りて行くぞ』、って言っていたから」
「用事が済んだら直ぐに返すと言った、妾は『貰う』とは言っていない、『借り』ると言ったのだ」
まあ、今日日、モンスターに連れて行かれて、『借りて行くそ』なんて言われた日には普通に攫われたって思うよね。思わない方が圧倒的少数だ。
と言うか、さらっと今、シンメトリーさんを失くしたって言ってたよね。
「失くしたとはどう言う意味ですか?」
僕の代わりに相馬さんが突っ込んでくれた。
「うむ、気がついたらいなくなっていたのだ、一体どこで落としたのやら…」
自転車の鍵を失くした、あれ、どこに行ったんだろ? くらいの気軽さで言っている。
もちろん、公共交通機関以外、徒歩と自転車が主だった『足』である僕らの年代層の者達とってみれば自転車の鍵の紛失というのはそれなりに重い問題でもあるけど、人1人を失くしてしまった問題に比べれば大した事ない。
最悪、歩いて帰ると言う選択肢もある。
そしてドライバーを持ってホームセンターで新しい鍵を買って付け変えれば良いんだ。でも昨今、このダンジョンができてから、ダンジョン用ブースを常駐させる様になって、ホーマックをはじめとする北海道のホームセンターって、自電車用の売り場って少なくなって来ているんだよね。
ほら、冬の間は自転車乗る人ってあんまりいないから、この地方ではあまり自転車を多くは取り扱わないんだよ。
冬の間は売り場その物が無くなってしまうし、それをいうならバイクも一緒だね。それでも、北海道のホームセンターでは、冬の間は色とりどりの除雪道具とか並ぶから、それはそれで見応えがあるけどね。