第181話【騎士堕ちる、悪魔の腕の中で】
この攻撃によって、土岐は
「いい加減にし・・・・・・Guuuuuuuuuuu〜」
土岐寝た! 寝かしつけられた!!!!!!!
なんて恐ろしい攻撃のコンボだ。土岐の寝顔は、今寝たばかりだと言うのに夢も見ていないほどグッスリと深い眠りに落ちてしまっている。
流石にハイエイシェントで、『悪魔の花嫁』と言われているだけの事はある、恐らくはこのまま上位にクラスチュンジで、『悪魔の母』は約束されている様な物だ。愚図る赤ちゃんどころか、荒ぶる騎士さえも抱いて寝かしつけてしまうとは、まさに身も凍る思いだ。
土岐は寝ている。
此花さんは笑い過ぎで、過呼吸を起こしていた。
この状況の中で、鴨月んが、
「僕は完全に時間制限のある『石化』を食らってしまっていました、でも、最後まで抵抗しようとしていた相馬さんは…」
「やめて!」
と相馬さんは叫ぶ、でも土岐は寝ている。
「でも、相馬さんと同じ事されたら、真壁さんだって」
一体どんな攻撃をされたのだろう?
「私から話すよ」
と相馬さんが言って、解説してくれた。
「踊らされました」
ああ、そうか、完全に相手に戦いのペースを持って行かれたって事なのかな?
「いい様にあしらわれたって事?」
すると、相馬さんは首を横に振って、手で顔を覆い隠して言った、振り絞る様に、そして叫ぶ様に僕に伝えたんだ。
「そうじゃないんです、さっきの戦いで、私、もうルンバとワルツは最初の方だけ、簡単なステップは踊れてしまうんです」
悲壮な声なんだけど、意味がわからない。
「うむ、その娘は中々筋がよかったぞ」
とか花嫁さんは言う。その花嫁さんの腕の中で土岐は眠っている。
つまり、剣を抜いて、相馬さんのスキルである目を使っての感覚全開の戦いを挑むも、いつの間にか手を引かれて、クルクルとここでダンスを踊っていたって話らしい。
「え?え?え?」ってなる相馬さんを相手に、
「もっと胸を張れ、肩、腕を降ろさない、そう、そのまま私の足の間に左足を踏み込んで来い」
厳しい指導は1時間に及んだらしい。
よく、ゲームの中に、敵の特殊攻撃に、つられて踊ってしまう、とか不思議な踊りとかあるけど、悪魔の花嫁さんの特技の中には『ガチな踊り』があるらしい。
厳しい花嫁さんの的確かつ熱血な指導で、足腰立たなくなるほどの指導を受けた後、シンメトリーさんは連れて行かれたと言う事だった。
そりゃあ、体力も気力もバッキバキに折られるよね。
こっちは真剣にかかっていたけど、気がついたら社交ダンスを踊らされていたんだから。人によってはトラウマになる人だっているさ。
「秋先輩、中盤に差し掛かったらツーステップ目に気をつけて、わからないくらいの変化を入れて来ます」
と言う相馬さんのアドバイスに、何かきっちりと指導されているなあ、とか思いながらも、その実力の前に油断なんて出来る相手じゃないのは僕も知ってる。
それにしても、土岐を人質に取られてるのって辛いなあ。ほんといい気持ちでスヤスヤ寝てるし。
さて、どうしよう。
「さて、どうする?」
相手も同じ事考えていた様で、不意に質問を受ける。
「戦いたくはないですね」
ぽろっと言ってみる。
「それはありがたい」
と花嫁さんは言った。
やっぱり、この人、『悪魔の花嫁』には人の言葉が通じて、彼女自身も言葉を持つので、わかりやすく理解しやすい。
そして花嫁さんは僕の顔をじっと見て、
「お前が真壁秋か」
と尋ねてくるから、頷くと、
「なるほど、フアナとその夫の言う通りの男だな、我らモンスターを怖がりもせず、人の本能にまで刷り込んでいた敵意も、かけらもないのだな」
と言った。
そうなんだ、この前の怒羅欣の臣さんのみたいに、モンスター間でもそんな話になってるんだ。変に大げさになっていないといいな。