第180話【思いつく限り最悪の騎士封じ】
簡単に剣を封じられてしまう。
しかし、そこは土岐も負けてはいない。剣がダメなら、と、
「喰らえ!」
と言う掛け声と共に、両手で持っていた剣から右手を話して、正拳突きで花嫁さんの顔面を狙って一撃を放つ、どうやら土岐は徒手格闘もいけるらしい。
「ほれ」
と結構いいパンチだったんだけど、そのままその突き出した正拳突きも花嫁さんに持たれてしまう。
でも土岐は負けない。
「まだまだ!」
両手を固定されたまま、空手で言う前蹴りみたいな形で花嫁さんに蹴りを見舞う。なかなか見上げた根性だな、やるな土岐。
しかしその目論見も少し花嫁さんに状態を逸らされただけで虚しく空を切ってしまう。
「ああ、もう忙しない男だ、少し大人しくしておれ」
と蹴りがスカってそのままの勢いで泳いでしまう土岐の足を、軸足にしている方から掴み上げて持ち上げてしまい、土岐の手は固定されたまま引き寄せられて、肩から支えられて抱かれてしまう。
今、2人の動きが止まったんだけど、終わってみると、ああこれって…。
此花さんが、僕の後ろで大爆笑してる。
さっきまで、ひどく落ち込んでいた相馬さんまで、「その人を放して!」って言ってから、「ぷっ…」と今にも笑い声が吹き出しそうなのを無理やり押さえ込んでいる。鴨月くんは小さい声で「笑っちゃ悪いよ」と相馬さんに一応の注意をしていた。
いや、本当に笑いごとじゃあないんだけど、でもこれはちょっと。
当の土岐も『あれ?」って顔して固まっているし、あ、状況を飲み込んでジタバタし始めた。
「こら! 下ろせ!」
とジタバタしている土岐が何か余計に物悲しく見えた。
うん、これは悲しい、女の子たちは滑稽で笑えるかもしれないけど、同じ男としてみると物悲しい以外のなにものでもない。
今の状況を的確に表現すると、土岐は花嫁さんに抱っこされていた。
しかも、ただの抱っこじゃないよ、うん、これ、まごう事ないお姫様抱っこ。
土岐はそれはもう、これ以上ないってくらいにお姫様抱っこされていた。
「騎士が花嫁にお姫様抱っこってフヒヒヒ」
此花さんも変なテンションになって笑っている。
しかも、綺麗に抑えられた抜き身の剣が胸に押さえつけられて、多分、エンシェントモンスターである花嫁さんは相当に力が強いようで、土岐の胸の前で全く動かなく固定されている姿が、まるで花婿にお姫様抱っこされる花嫁が胸にブーケを抱いているみたいでさらに痛い姿になっている。
しかし、悪魔の花嫁である、高位の悪魔の攻撃はこれで終わるわけではなかった。
「くそ! 離せ! いい加減にしろよ!」
と土岐はお姫様抱っこされた状態て、上半身を起こそうとするが、
「うるさい男だな、少し大人しくしているがよい」
と土岐を抱えている腕が、ゆっくりとしたリズムで、右に左に揺れ始めたのだ。
「ほら、よしよし」
緩慢な原始的リズムのスイング。
まるで慈しむ様に、すぐ目の前にある、土岐の顔を見つめて、微笑む悪魔の花嫁。
なんて恐ろしい攻撃なんだ。
まるで、土岐なんて、赤子のようなあしらわれ方だ。
いや、というか、赤ちゃん扱いだよね、これ……。
積極的に絡んでいかないで良かった、って胸をなでおろす僕だったよ。