第39話【狸小路商店が(裏)現金掴み取り大会終了】
本当に人間てショックを受けると倒れそうになるんだね、もう、ふら〜っと2・3歩後ろに下がった所で、いつ間にか戻ってきた春夏さんに支えてもらってしまった。
「大丈夫、秋くん?」
そして僕に拳を差し出し、それを解いて、手の中にあるものを見せてくれた。
「ほら、ギザ10、秋くんに襲いかかってきそうな10円玉は全部倒してきたよ」
彼女の手には20枚くらいのギザ10が握られていた。みんな新品な未使用な輝きを放っていて、余計に僕の心を落ちこませてくれる。いいなあ、市場価値にして2万円くらいはあるなあ。いいなあ、本当にいいなあ。
すると、今度は角田さん、
「秋さん、お疲れ様です、先ほど市場価値で言う所の最高金額のエリアボスが討伐され逃走したみたいですね」
とおっしゃる。
「え? そうなの、へー」
って気乗りのない声で行き当たりで答えてしまう。ってか、知らないし。僕関係ないし、って思って聞き流している。こういう時って、同じ舞台にいながら、幸せになった人の話なんて聞きたくもなくくらいの冷えた狭い心になってしまうから、それ以外にもいろいろ説明してくれてた角田さんのありがたい言葉は全部音として認識したい。
「ボスが倒された事で自体は収束して行きますよ、こいつらが舞飛んでいるのも後わずかですよ」
そこだけはしっかり聞いてた。
そっか、イベント的にも終わるんだな、『地下狸小路商店街現金掴み取り大戦』。
今回、参加してみて、本当に思ったのは、欲望のままに奮う剣(棒)には偽りしか得ることはできないんだな、って泡のような期待はほとんど現実という名のガッカリ感によってのみ覆い尽くされた。
その期待と希望。
埋められない欲望のみが、残り火として僕の心の中にともってる。
結局、火は消えてゆくんだね、きっと今日の夕飯を食べてるころには切り替えてると思うけど。今日の夕飯何かなあ……?
「あ、夕食、春夏さんも食べてく?」
「うん、お邪魔していい?」
「いいよ、母さんも喜ぶしね」
って言ったら、春夏さん、とても喜んでいた。
この笑顔を見れただけでもよかったよ。基本、春夏さんって、僕には気持ちいいくらいの笑顔をむけてくれるから、いつでも見れそうだけど、ほら、日常こそがさ、一番幸福な事なんだよ、って、つまりはそう言う事なんだよ。
もしもここでさ、大金を受け取ってしまって、それが本当に良い事なのかって、自問自答の中に、苦労もせずにさ、名剣を手に入れようなんて、飛んでるお金で買おうだなんて、結局、ろくな事にはならない。
更にいうなら『タダで手に入れられる剣』なんてロクでもない物って事だよ、ほら、よく言うじゃん、『油銭、身に付かず』ってさ、つまりツルツル滑って、更にものに寄ってはベタベタして、持ってられないって事なんだ。そんなのコンビニとかに出したら迷惑だよね。
「あぶく銭ですよ、秋さん」
って、教えてくれる角田さんだよ、今はそういうのいいから、正しい情報とかいらないから、好き勝手に色々考えさせてよ。で、真希さんみたいに人の思考を読まないでよ。
って思ったら、どこか優しい笑顔で僕を見て微笑んでる角田さんだったよ。
今回の結果っていうか結論を、端的に言うなら、ほんと、『取らぬ狸の皮算用」って感じかな?
でもね、皮算用ってこの言葉もさ、「この狸の皮、売ったらいくらくらいになるだろう? で、そのお金で何を買おう?」って意味の言葉らしいから、それはそれで、ワクワクして、夢を見て、希望に満ちた良い言葉じゃないだろうか? って思う僕だよ。
つまりさ、狸小路商店街は地下も地上も、どっちも『現金つかみ取り』がある夢見る商店街って事なんだ。
なんとなく気持ち的に綺麗に纏まったところで、角田さんが、
「では、秋さん、これからどうします?」
僕はざっと周りを見渡すと、1円玉硬貨が撒かれていた床の上は概ね切れになってる。
そして、室内には硬貨の小山が点在してて、あれはきっとダンジョン銀行の偽の硬貨だなって、すぐにわかるから、ギルドの人たちばかりじゃなくて、多くの、ほとんどのこのイベントに参加したダンジョンウォーカーが自主的に片付けていて、徐々にその形が整理整頓されて来る光景を見ながら、僕は、お祭りの終わりを悟ったんだ。
だから、
「片付けるの手伝って、帰りましょう」
って言って、いそいそと、片付けをしてる人たちの方に混ざって行く。あ、ギルドの人、塵取り貸してくれるんだね、いいね、便利だね。
こうして、僕の『地下狸小路現金掴み取り大戦』初挑戦は終了したんだ。
様々な思いが、失敗と準備の不足と至らなさに、後悔と残気に埋まる心で、僕はワイワイと片付けているダンジョンウォーカーな人たちを見て、思う。
でも、まあ、楽しかったな。
次も来よう。
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