第176話【鉾先八瀬の無謀…じゃなくて野望】
クロスクロスの野望というかなんというか……。
ほんと大きくでたもんだ、と感心してしまう。
「おお、流石の真壁も呆れてるって顔してるな」
今日、三輪車が乗れた園児が明日、大型バスを運転しようとしてる様にしか見えない。周りにいる常識人とか注意しろよ、とか思ってしまう。
無理というよしも無謀、本気って聞くよりも正気?って言いたくなっちゃう。
「いや、だって、そうでしょ、そもそも無理だし、本気なの?」
「本気…、なんだろうなあ、多分、あいつそういう冗談は言わないからさ」
と土岐はどこと無く寂しそうに言った。
ここで気になった事を聞いてみる。
「そもそも土岐ってさ、鉾咲さんの知り合いなの?」
「ん、ああ、姉だな、多分、姉弟って感じかな」
なにそのふわっとした言い方、姉弟ならそれでいいじゃんって、苗字とか違うし、思うけど多分事情とかあるのがわかる。何か土岐言いにくそうって顔してるから。
「なあ、真壁、この北海道って親の無い子供育成の施設が多いの知ってるか?」
聞いた事はある、でも僕の知っていることかどうかはわからないから、
「いや、知らない」
って答える。
すると土岐は、
「ここダンジョンがあるだろ、ダンジョンには年齢制限があるよな、そのせいでさ、ここには子供が良くも悪くも集まってくるんだよ、で、そんな環境だからさ親が育てられなくなった子供がさ、他の土地よりも裕福にってか恵まれた環境で育つことが出来る土地なんだよ」
あ、それは聞いた事がある。
『子どもポスト』とかで、親がやも負えぬ事情とかで子供を育てられなくなって、匿名で捨てて行く施設とかあって、そう言った子供達も、割と施設の充実したここ北海道に集められているとか、あとDVとかで家庭が崩壊してしまった子供とかも受け入れているんだって話は聞いた事がある。
あまり愉快な話ではないけど現実なんだよなあ。
「俺らはそこの施設の出身なんだ、俺と八瀬と協十、それとあと数人いるけどな」
「そうなんだ」
考えさせられてしまうよね。極々普通に生きて来た僕にとっては全く想像できない話だ。一度、薫子さんから、母親のいない生活について話を聞いた事があったけど、片親のいない状況ですら考えられない僕は、彼らに比べてきっと甘い人間なんだと、それだけは自覚している。
きっと僕の知らない辛い事もあったのだろうって想像してしまうのも失礼な気がして、正直どう受け止めていいのかわからないと言うのが正直な感想だった。
「おいおい、そんな顔するなよ、過程はどうあれ、俺はここに来てあいつらと出会えて良かったって思ってるんだ、それに、このスキルで、ダンジョンに入って北海道に恩返しだって出来るしな、そんな悪いことばかりじゃないんだぜ」
土岐の奴、なんか聞いてはいけない事を聞いてしまったって感じになっている僕の背中をバンバン叩いて、
「それにしたって、あの八瀬はさ、小さい頃から目立ちたがりで自己顕示欲が強くてさ、問題ばかり起こしていたんだ」
まあ、それはなんとなく想像は付く。
「ガキの頃からデカイことばっか言ってみんなを振り回して、まあ、仕方ないって思って後ろをチョコチョコついて歩いてた弟分のガキが俺ってことなんだよ」
子供の頃と、今とじゃ、そのデカイ事ってのも規模が違うと思うんだけど、何か土岐の懐かしい良い話みたいにまとまってしまう。