第175話【綺麗に片づけました】
結局、戦いっていう蓋を開けてみれば、手加減した状態での圧勝で終わっていた。
もう戦いっていうより片付けている感じ。例えるなら、蓋を開けた瞬間に閉めちゃった感じ。多勢に無勢を淡々と処置している感じで終わってみれば、聞こえて来るのはクロスクロスの6番隊の人達のうめき声。
強いな、相馬さん。
いやいやこれはかなりの物でしょう。
「彼女もギルドの人間かあ、こりゃあクロスクロスがこのダンジョンでイニシアティブを取るなら、人員の総入換しないと無理だな」
と土岐はその場で床を埋め尽くす、倒れた6番隊の隊員と隊長さんである武井さんを見て呟いた。
ほんと、隊長さんアメコミの悪役みたいな感じでわかりやすく倒されていて、あお向けにお尻を突き出して綺麗に気を失っていた。
「秋先輩、綺麗に片付けました」
と、相馬さんが言う。
まるで窓を開けて部屋の空気を入れ替えるくらいのお手軽な言い方にちょっと笑ってしまった。
「なあ、ギルドは強い奴がいる事は知っているけど、彼女はまだ新隊員だよな、入隊したばかりでこの強さって事は、他にもどんな猛者がいるのか薄ら寒くなるよ」
「クロスクロスの人間が弱すぎるって気もするけどね、少なくとも対人戦を仮定するなら、ちょっと脆い人が多すぎる気がする」
思わず本音言っちゃう僕だよ。
「確かになあ、戦闘ばっかがダンジョンでは無いって言うが実際は腕っ節が物を言う場合が多いもんな、ほんと、八瀬の奴、人ばかり増やして何をしたいんだよって気になってくるよ」
あの、鉾咲さん、つまり土岐の言う所の八瀬さんね。その鉾咲さんが起こした事件でも、あの金色宝箱の時とかも思った事だけど、本当にこの人達弱いんだ。もう、豆腐か寒天かってくらい歯ごたえがない。
あれ? いやちょっと待って、今、土岐、気になる事を言ったぞ。イニシアティブって言った? いや聞き間違いかも、一応、聞いてみる。
「え? 今、ギルドに変わってこのダンジョンの何を取るって言った?」
「あ、ああ、八瀬の奴は、ギルドに取って変わりたいみたいだぞ、まあ無理だけどな、絶対にかなわない願いだけどな」
「そりゃそうだろうさ」
本当に、鉾咲さん大きいな野望。ってか大きすぎるな野望。もう大きくて巨大でその全貌で鉾咲さん、前どころかほぼ全ての視界が見えてないくらい覆われちゃってる感じだよ。もう願望っているか巨大な目隠しに近いよ。
第一、クロスクロスがギルドに取って代われるかって問題だけど、まず無理だね。
もう無茶もいい所だよ。
本気で考えているとしたら、ちょっとどうかしているレベルだよ。
第一、歴史と成り立ちが違う。
そもそも、ギルドがあるこのダンジョンの中でそれなりの団体になってさ、ギルドも口を出せないくらいの勢力を持つってならわかるけどさ、というか、たぶんこのダンジョンの中で群雄闊歩する勢力の人達のほとんどがそうだと思うけど、流石にギルドに取って代わりたいって思う人って居ないと思う。
だって、まずは団体の成り立ちとしてが違うし、立ち位置も違う。それに、元々がダンジョンの安全と平和を守るって、そう思って集っている人達が、このダンジョンが出来てからコツコツと積み重ねて作られた団体だから、重さとか、崇高なる目的意識から持って全く違う。
こんな事言いたくないけど、ダンジョンを学校に例えるとするなら、先生と生徒くらい違う。