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第38話【500円札なんてあるわけないじゃん!】

 比較的至近距離にいる。というか来る。


 しかし、ねじりと回転となによりその速度で、数字までは読めない。


 でもその正体はわかる。


 今の僕が、それを見逃す筈がないんだ。


 現金に飢え、それに期待し、堅実な目標のある僕の視界の端にでもかかれば、その正体は自ずと知れるというものだ。


 声が出そうなる、しかし、この好機、言い換えるとチャンスを目の前に、その声も出ないほどに気持ちが凄い勢いで上昇してゆく、もう、気分はテレビ塔、いやJRタワーのヘリポートくらいの気分。


 そいつの正体。それは……!


 札束だ!。


 さっきから僕を襲って来ているのは、札束だったんだ。


 しかも帯のついてるヤツ。


 千円札なら10万円、5千円札なら50万円、1万円札なら100万円。100万円、100万円! 


 うおお100万円だ!


 僕にとって全てを無かった事に出来る価値が、金額が、今まさに僕の目の前にいるんだ。


 お金掴み取り放題の正体がほとんど1円玉で、しかも半分が偽物だった事や、ジャージがちょっぴり破れた事によってお母さんに怒られるかもしれない事や、ギザ10円玉にあっさり逃げられて、守っていたはずの春夏さんに心配された事や、あんなに可愛い札幌ダンジョンのアイドルな真希さんのお笑い守銭奴装備や、普通に自分に騙された3万円札とか、もういい。全ては過去の事だ。


 もう全ての後悔と雑念、そして、自分が思い描くチープな未来は捨てよう。


 問題は、この得たお金で何を買おうって事だけに集中した。


 非金属系の鎧とか、軽いの欲しいなあ、ペイントは何色にしようかなあ、純粋な思いが次々と浮かんでは消え、消えては浮かんで、バッソに銘とかも入れてもらえるかなあ、なんて考えていた。


 そして、様々な思いは統合して、ひとまずアレを倒さないと手に入れられないな、ってなって、僕は、やつ、つまり札束に対峙したんだ。


 さあ、来い100万円(切なる願い)!


 100万円の札束(希望的観測)ははるか中空に浮かんで、僕を見下ろし佇んでいるように見えた。


 次の接近がおそらく最後の邂逅になることを悟っているかのように、静かに僕を見下ろしていた。


 次の瞬間、それはまるで流星のように、最短距離を持って僕に向かって飛んで来る。


 今までの攻撃とは比べものにならいなほどの圧力を持って、速度によって質量を増してそれは僕に向かって一直線に。


 多分当たれば、『痛い』では済まないだろう、『ぎゃああ』くらいの声は出てしまうくらいの軽傷を負うんじゃないかな。タンスの角に小指を打つけたくらいの激痛に襲われると思う。


 でも、そんなの覚悟の上だ。さあ来い100万円(願望)!


 「秋さんファイトです!」


 と、さっきと同様、まるで存在を消しているかのような、空気みたいだった角田さんが、そっと応援してくれる。ありがとう角田さん、倒したら何か奢るよ。あ、春夏さんにもこのライオットシールドの動きやすい小さめのバックラータイプの奴を新調してあげようかなあ、なんて雑念が吹き上げて来たところで、100万円(純粋な思い)が僕に最接近して来る。


 大丈夫、剣とか持ってないけど、体が流れない。刃物の装備じゃないけど、しっかりと自分の体が自分の形になってる。オンコの棒のおかげかな? って、今はそれどころじゃない。


 大丈夫、見えている。そしてあの時のスライムのような手ごたえさえも僕にとって幼稚な相手に思えた。


 くらえ! 僕は780円を持って、推定100万円の札束をはたき落とす。


 よっし!


 一円玉の散らかった床に落ちたそれは、二度ほど叩きつけられバウンドして、また落ちる。


 もう、ピクリとも動かなかった。


 そして、喜び、達成感をもって、その札束を見た僕は知ってしまう。その残酷な現実を。


 認めたくなかった。この目がどうかしているのだと思いたかった。


 「そ、そんな…」


 倒したソレは、1万円(最後の希望の光)であろうと誓っていたその札束の紙幣には、『五百』と書かれていた。


 おいおい、それはないだろう、なんだよ、『五百』って、ありえないだろ、500って!


 まるで、世界に裏切られた、ってそんな気分だった。


 「500円は硬化じゃん!」


 と、思わず叫んで床にたたきつけてしまう。


 床にたたきつけたそれは軽く弾んで、散らばる一円玉を弾いて軽いアルミニュウムが奏でる音がした。


 ショックだった。


 3万円札に引き続き、騙された僕がいる。あれ? でもこれって、足元に転がるそれには『日本銀行券』って書いてある。


 でも偽札だよね、ありえないもん、500円のお札なんて、ほんと、手が込んでて絶望に笑ってしまう。


 そして、その偽札束、気を失っていただけのようで、しばらくすると再び動き出し、フラフラと何処かへ飛んで行ってしまった。


  偽札に踊らされて、僕の『地下狸小路商店街現金掴み取り大戦』は静かに閉幕してしまった。


 もうダメ、心がへし折れたよ。ほんとバッキバキに折れた。もう帰りたい。家に帰ってご飯食べてお風呂入って寝る。


どうか、何卒、ブクマ、感想等よろしくお願いします!

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