第37話【大切なのは、そこに表記された価値】
ありがとう、そうだね、でも、僕2千円札って見た事ないから対応できるかなあ……?
ここでハッと気がついたんだ。
ダメだ、弱気になってる。
金銭における期待の裏切られ方の、意外なほどの心の突き刺さるダメージが自分で思ってより深い。
なんか、もうガックリって感じになりそうな心を無理矢理奮い立たす。
そうだよ、カッコいいバッソ買うんだよ。想像してみてよ、自分がそれを装備した姿を。そして、その手段は今、僕の目の前にあるんだ。
もっと純粋、澄んだ心で、ピュアなハートで、自分の雑念とそれに塗れた欲望と身勝手な未来を思い起こせ!
ここで心をへし折られている場合じゃないんだ。
自分が欲しいものはなんだ?
何を装備したんだ?
そう、それはカシナート…………。
って、この硬貨の鳴り響く音の中でどさくさに紛れて叫ぼうとした。だってこういうテンションて大事だからさ、で、口を開いて叫んだ瞬間に、誰かが、『僕の装備するのは!〜』ってところで、囁くんだ。
その声は、こう言った。はっきり聞こえた。一瞬ノイズをキャンセルしてくれたみたいに明瞭にその声は僕の耳の中に届ける様に、
「私ですよ」
うん?
周りを見回して見る。
誰もいないなあ。
春夏さんとかだいぶ離れた場所にいるし、近くにいる角田さんの声でもないし、気のせいかな? でも、まあ、例えそうだとしても、人が盛り上がろうとしているのはやめて欲しいって、空耳に対して不満な感情ぶつけてみる。
もちろん、何も起こらないし、誰も返事をしない。
当たり前だよね、だって空耳だもの。
ともかく、今の現状を把握しよう、って僕は、ポケットの中に手を突っ込んで、今日得た利益をざっと数えて見る。
大量の1円玉と、10円玉、そしてたった1枚の100円玉、合計で388円、セイコーマートでフライドチキンを買って、『オレンジソーダ(無果汁)』を買い、デザートにうまい棒3本かあ…。
これじゃあ、お腹が満足するけど、当然本来の目的には到底届かない。
今日得た物に満足して、その日その日で生きているようなら、どっかのファンタジー世界に出て来るモブな冒険者だよ。『じゃんじゃん飲み物持って来い!』とか酒場で叫んでしまうょうな。その日暮らしだよ。
少なくとも、堅実な世界に生きている僕は、実益を考えて、今日が無理でも今得た経験と体験を次に繋げる為の行動を取らないと、ダンジョンウォーカーには、時間は無限にはないからね。泣いても笑ってもお終いは高校卒業まで、先が見えているのは不安でもあり残念でもあり、また安心でもある。だから、今日はダメでも今できる精一杯の事をしないと、なんて前向きに後ろ向きな事を考えていた時だった。
僕の目の前を、何かが通過した。
それは研ぎ澄まされた集中力を発揮する僕の動体視力を持ってしても、何やら青い塊って感じの物だった。いや、青って言うのも正確かどうか、そんな風に見えたんだ。
そして、あの時のぞくりと言う感覚。あのスライムの森の時に教えられた、あの遭遇の感覚、今までのコインや紙幣の時もあるにはあったけど、それよりももっと濃い感じの物が僕の体に降りてきたんだ。
なんか、この時改めて知ったけど、この感じって、遭遇する相手の強さとかそう言ったものをプレッシャーみたいなものの上下も感覚として教えてくれるみたい。
結構便利だなこの感覚。あの時、真希さん体を密着して教えてくれた事が完全に身についている事を改めて僕は知った。確かにあの教え方はあの時必要だったんだ。
今僕が遭遇している敵は強い。
多分、今、周りにいるコインや紙幣なんかよりもずっと強い。
相手が何かなんてわからない。でもそれが僕に対して明かな敵意を持って接してきていることはわかる。
来る!
その時はとっさの感覚だった。
でも、来る方向は分かる、ひとまず盾て回避しようとする。
盾を前に翳すと同時に、ガツンと大きな衝撃。
コインの波状攻撃でも、紙幣の紙な攻撃とも違う。
一体相手の正体は?
僕は正体不明の存在をすぐに知ることとなった。
奴は、僕の盾に弾かれても尚、速度を殺す事なく後方へ流れるが、再び僕に挑む為だろうか、方向を変える動きをする。その時、位置上の関係から、ほんの一瞬、僕の目に止まって見えた。
僕は集中する。もちろんそれは攻撃に対してではなくて、その紙幣になんて書いてあるか確認する為だ。
問題は、その紙幣がいくらかって事なんだよ、ホント大事。
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