第36話【ついに硬貨から札のシーズンへ】
僕から離れて戦線に復帰してゆく真希さんを見送って、意識せず真希さんの後ろ姿を見つめていて、なんだろう、その守銭奴装備って、オケラかアリを擬人化した姿に見えて来る。
そんな時、群衆の中からどよめきが走る。
僕はその声を聞き逃さなかった。
「札だ」
そう、お札って言ったんだ。
僕は中空を見上げた。
札って、あの札?? 100円を10個集めたのと同等の1000円札とか、その上位種である5000円札とか? まさか、さらにその上の、まさに貨幣世界のエルダーともいえる最上位種である10000円札とかの、その札????
このコインの群れの中にお札が紛れ込んでいるってこと?。
この、『地下狸小路現金掴み取り大戦』の雰囲気そのものが変わった。
「何処! 札、何処!」
はしたなく、焦って叫んでしまう僕がいる。
本当、自分でもわかる、変なテンションだ。
この銀色の1円玉のストームの中に確かにそれは潜んでいたんだ。
身を隠すようにい1枚1枚が、縦になっていたからわからなかったけど、この大人数でそれなりの数の1円玉を排除して来たからこそその巧みに隠れていた札の存在を発見し気がつけたんだ。
それでも、札は高い。
あ、今のは貨幣価値的な意味じゃなくて、位置的な問題の方ね。
手の届かない高位に佇み、僕らダンジョンウォーカーを見下ろしていた。
1円玉の集団が数を減らすことで、札は、押し出されるように、攻撃する順位に着いたんだ。つまり、手の届くところに来る。
この時の僕は、集中するあまり、1円玉の波状攻撃なんて、全く気にならなくなっていた。
さあ、来い、千円札、5千円札、出来ることなら1万円札。
うお、よく見ると、結構な数があるぞ。
僕は、この時初めて知ったんだ。
ここからが、本当の『地下狸小路現金掴み取り大戦』って事を……。
追い付かない意識に覚悟。
札の存在と発見を喜ぶも、その瞬間、僕に向かって2〜3枚のお札が僕に向かって飛んで来る。
コインと違って重さのない紙の攻撃は、多分、その薄い体を使った切りつけ、上手く当たると割り箸も、真っ二つな紙の威力に僕は果敢に挑んで行く。
この時の僕の集中力は、自分で言うのもなんだけどそりゃあもうものすごいえげつないくらい発揮されててもう『時が止まる』まで行かないけど、その一歩手前までは行っていたと思う。
なんだろうね、そのお札に書かれている数字まで見えてるって言う感じ。
当然、僕は一番大きな数字を狙って行った。1より2。2より3って具合に。
さっきまでの100円に届かなかった時の二の轍は踏まない。僕の名刀『オンコの棒』の攻撃範囲も完全に把握してる。十分引きつけて、
「とうー!」
と、狙いどうり3の書かれている数字の札を叩き落として、尽かさずそれを拾い上げる。
「よっし! 3万円札ゲット!」って言ってから、
「なんだよ!3万円札って!」
って、自分で突っ込んじゃった。
ああ、ダンジョン銀行って書いてあったよ。そうだよね、硬貨が半分偽物なんだから、札だって半分は偽物だよね。
ペッチって床に叩きつ付けちゃったよ。
悔しい。自分の浅ましいこの金銭に対する欲望をうまく利用されて、真偽よりもその札に印刷された数字の方に意識が行ってしまった。
本当に、反射的に手を出してしまった。
いや、だって、お札にさ、『1』と『3』の選択肢があるなら、並んで飛んでれば、絶対『3』を獲っちゃうじゃん。『3万円札』なんて札、見た事も聞いたこともないよ、って思っても、数の上の判断として瞬時に数の多い方に流されてしまうし、気持ちは行くじゃん。
なんて計算され尽くされたトラップなんだろう。
恐るべきは北海道ダンジョン。そして『地下狸小路現金掴み取り大戦』
ダメだ、現実を、僕の知ってる知識を総動員して、1と5しかない。千円、5千円、1万円、この種類だけを追うんだ。1と5だけど追うんだ。
「秋さん、たまに2千円札ってのもありますよ」
って角田さんが追加でアドバイスくれた。
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