第147話 【『秋』を宿命と知るもの達】
お屋形さまって? キョドッて周りを見るけど、たぶん蒼さんの対象とするお屋形様って僕以外はいないと思う。距離的にも蒼さんの声の方向的んにも。
「いかがなされましたお館様?」
ああ、たぶん、青い顔しているんだと思うよ、変な汗出て来たし。
「いや、平気、大丈夫だよ、それよりその話し方、何とかならない?」
「何を申されます、今日、この時よりこの蒼はお屋形様の臣下、今までの非礼な対応は切にお詫び申し上げます。ごめんなさい、すいませんでした」
うわ、謝っちゃよ。蒼さん、もう僕に対して普通に話すつもり全くないみたいだ。
謝ると同時に頭を下げて、いまも下げ続けてるよ。
どうしたらいいんだろうか、って悩んでいると、いつの間にか僕の横にいた桃井くん、
「ほら、秋様、許してあげないと、多月さんいつまでも頭を下げ続けますよ」
「いや、許すも許さないもないよ、蒼さん悪いことなんて何1つしてないから」
「そう言う問題じゃないんです、秋様が『許す』って言わないと、蒼さん、明日も明後日も明々後日でもこのままですよ」
ああ、もう、
「いいですよ、許しますから頭を上げてください」
と言うと頭を上げて、本当に晴れやかな笑顔で僕を見つめた。そして、五頭さんの方を向くと、
「五頭、許してもらえたぞ」
「良かったですね、蒼様」
「やっぱあれかな? 素直になるのが良かったのかな、椎名の言う通りだったな」
「主人様は心広いお方ですから」
椎名さんも満々の笑みでそんな風に答えていた。
思わず素に戻ってしまった可愛らしい蒼さんだったけど、また気を引き締めて、1つ咳払いをしてからこう告げたんだ。
「我ら、黒の猟団、改め、『秋の木葉、血を枯らし、骨を砕いて、肉を引き裂き、命を粉にして、お屋形様の野望の為、誠心誠意尽くす所存です』
「え? 僕の野望って何?」
思わずビックリして自分の事なのに尋ねてしまう僕がいた。だって、身に覚えとかないから、一体何が飛び出してくるのかって身構えていると、
「北海道ダンジョンの制圧と征服になっています」
と、椎名さんに、路面電車の次の停留所を告げるアナウンスくらいの軽さで当たり前のように言われてしまう。
ダンジョンの制圧って何? ダンジョンの征服ってどんな状態を指すの?
多分誰にとって到達不能で意味不明な目的だった。
でも、ここに並んでる平伏している皆さんは、みんな満更でもないって顔していて、なんだろう、いつどこでかで出会ったかつての黒の猟団の人達よりも、どこかみんないい顔をしているように見えたのは気のせいだろうか? 中でも五頭さんのこんな穏やかな表情って今まで見た事なかったよ。
無方向にただ集められてた組織が、目的を持つ事で組織としてのレベルが何段階も一気に上がったみたいな、そんな印象があった。
お飾りみたいなお屋形様役で良かったら引きるけるよ、他にもファンクラブとかもあったしね、恥が一回り大きくなっても周りの印象は変わらない事を祈るよ。
そんな覚悟の僕に、蒼さんは再び告げる。
「我ら『秋の木葉』、紅に染まり地に落ちるは『秋』を宿命と知るものなり」
なんだろう、蒼さん見てると本当に真剣だ。
そして、僕は問われる。
「お屋形さま、ご命令を」
うーん、じゃあひとまず、
「解散」
と言うと、
「ハッ!」
と叫んで、本当にみんなその場からいなくなった。
ドロンって感じ。
うわ、マジだこの人達。
なんだったんだ、一体、と思いながら、ようやくダンジョンに入れるって思っていると、
「アッキー、ちょっと本部で詳しい話を聞くべさ」
って真希さんに呼ばれてしまう。
「長くなります?」
って聞いたら、
「今日中には帰れるべさ」
だって。
みんな、なんかまた長くなりそうだから、今日はここで僕らも解散って感じだね。
じゃあ、また明日ね。