第144話【僕、人ん家のおばあちゃんと一緒に温泉に行く】
考えてみると、クロスクロスの騒ぎから始まって、北藤さんを経て現在も至っている訳なんだけど。今度の今度こそ終わりで良いよね。
長い1日だったなあ。
「じゃあ、僕はこれで」
と颯爽と立ち去ろうとした時、おばあさんは言った。
「何を言ってるんだい、蒼の代わりに坊が行くんだよ、じゃあね東雲の、この坊は借りて行くよ」
っておばあさん僕の手をとってそんな事を言うんだよ。一体何を言っているのか?
「あの、意味というか、意図というか、僕にはサッパリ分からないんですけど?」
すると、おばあさんは、1つ大きなため息をついて、
「良いかい、坊、私は今から『道東の旅』の為に、孫娘をここで待っていたというわけさ」
?????
「だからね、私は『北海道観光』に来ていたんだよ、蒼に案内を頼むつもりでね」
ああ、そういう事、で、どういう事?
「その蒼を坊が直ぐに札幌に戻してしまったんだから、私は1人でこれから釧路、知床を回らないといけない、出来れば、温泉にも入りたかったんだけどねえ」
「あー、そういう事なら、僕、今直ぐに蒼さんを連れて来ますよ」
と何とかその場を離れようとするも、おばあさんはその手を離してくれない。
「もう、行っちまったよ、まあ、良いさ、坊の事ももっとよく知りたいしね、坊、あんたのお母さん、なんて言うんだい?」
「いや、何で、僕がおばあさんと温泉や、摩周湖や屈斜路湖や阿寒湖に行かないといけないんですか?、疲れてるんです、帰りますよ、僕は」
「疲れてるんなら温泉とか良いんじゃないかね、ほら、行くよ坊」
「だから、学校とかあるからダメですよ、何か悲しくて今日知り合ったばかりの他人の保護者と温泉に行かなきゃならなんですか」
と、矢継ぎ早にいいたてると、
「ああ、もう、わかったよ、ちょっと良いかい」
といつの間にかおばあさんの周りには黒服のいかつい男の人が集まっていて、その中の1人に、
「坊を数日学校を休ませるから、連絡しといてくれ」
1番近くにいたイカツイ黒服の人、うなづいて、懐から出した今時?って感じの二つ折りの携帯電話を取り出して、何やらボソボソと話をする。会話が終わって、おばあさんにそっと耳打ちすると、
「これで坊は私の付き添いで学校休んでも欠席にならないよ。ほら坊、行くよ」
と僕の腕を強引に引っ張ってズンズン歩き出す。引かれる僕はもう、肉体的にも精神的にも疲弊していて、もうナスがまま、それにしてもこのおばあさん、体格と年齢には似合わない力で僕を連れてゆこうとするんだよ。
「ほら、早く行くよ、坊、さっきの『貫』教えてあげるから、このばあさんに北海道を案内しておくれよ」
え、さっきの奥義っぽい技教えてくれるの? なんて思ったら、ちょっと気持ちが傾いて来てしまった。それを角田さんや春夏さんはささっと見抜いたようで、
「じゃあ、秋くん私たち行くから、札幌に戻ったら電話して」
と春夏さんが、おばあさんに向かってペコリとお辞儀して言う。もう春夏さん僕の保護者の振る舞いだよ。
「良いなあ、温泉とカニかあ、でも僕あんまし札幌離れられないからなあ」
って指を咥えて呟くのは桃井くんだ。そんな目をされるとなんか一方的に得をしている気分になるから不思議だ。
「秋さん、早く帰って来てくださいね」
と角田さんが言う。
「うん、よくわからないけど、行って来るよ」
となんかもう、前後も左右もどうでも良くなってしまった僕は、疲労もピークに達して頭で、桃井くんの言ったカニを想像していたんだよ。
今の時期ならタラバガニとかかなあ……、なんて漠然と思い描く僕だったよ。