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第142話【鼻血じゃないんだよ】

 この突きつけ合う僕とおばあさん、その目がね笑っているもの。


 で、おばあさんの言う通り、勝負は一瞬でついた。


 多分、見ているひとの大半は何が起こったかわからないはず。辛うじて春夏さんと蒼さんが反応していた。


 その杖の先端が僕に迫る。


 その時、その先端は、まるで放たれた銃弾の様、いや、速度にしてみればそれ以上だったかもしれない。放つおばあさんはまるで動かず、まるで杖の先端だけが伸びたようにそれは僕の鼻先に迫った。 


 いつ放たれかたわからないそれが僕の鼻先を捉えた瞬間に、僕の切り上げた剣は、その弾丸を2つに裂く。あくまで僕の頭の中のイメージで動いてしまった物だから、僕の動きはそれを弾丸だと捉えてその先端のみを2つに裂いてしまったんだ。ほんの1センチくらいを綺麗に真っ二つに。


 多分、おばあさん、僕を貫いてしまおうなんて物騒なことは全く考えてなくて、きっとだけど、僕の鼻の頭をチョンと突いて、「私の勝ちだね」なんて言うことを考えていたんだろうなあ。その切っ尖に殺意なんてまるで感じなかったもの。


 でも、その戦慄する速度に思わず反応してしまった僕は、一応の攻撃の意思のあると判断した、杖の先、つまり僕が弾丸だと感じたそれを真っ二つに切ってしまった。いや本当は弾くつもりだったんだよ、でも、この剣、本当にきれすぎるから、なんの手応えも無くて分断してしまったって訳だよ。簡単に言うと切れ間を入れてしまった訳だね。


 おかげで、切られた杖の先は、僕の鼻の皮膚をほんの数ミリ掴んで引き裂いてしまう。痛くはないけど、血が出た。鼻の頭だから微妙に鼻血じゃないけど、それっぽく、ばかみたいに見える。


 「あー」


 なんか、拭く物、ハンカチかティッシュを探そうとするんだけど、ダンジョン帰りの僕だけにそんなの持ってない。持ってる人は持ってるんだろうけど、僕はダンジョンに入る時は持ち歩かないんだよ、大抵、春夏さんが貸してくれるしね。


 でも今日は、その春夏さんよりも早くおばあちゃんが僕の鼻の頭をハンカチで抑えてくれる。うわ、高そうだよそのハンカチ。


 「ばかな子だねえ、凄い子だよ、でもばかだねえ」


 どっちだよ、って突っ込みたくなる僕だけど、おばあちゃんはニコニコして僕の鼻を拭いてくれる。ほんと、皮膚がコンマ数ミリ持ってかれたみたい、ちょっとヒリヒリしてる。 


 「こりゃあ、うちの蒼が斬られるわけだねえ」


 と蒼さんを見ておばあさんは言う。


 そして、僕の顔をじっと見て、蒼さんを呼んだ。


 蒼さんは春夏さんからの拘束を解かれて、僕らの近くまで来て、そして、いっしょに付いて来た春夏さんが僕の顔を心配そうに覗き込んだ。


 「私の『貫』が阻まれる、じゃなくてさ、斬られたってのは初めての事だよ」


 と全く呆れたみたいに言うおばあさん。


 「あ、でも、僕、出血したから負けですよね?」


 残念、次の手を考えないとな、どうすっかな?


 「いいや、坊の勝ちでもいいさ、良くやった、大したもんだ」


 とおばあさん、さっきまでの品の良い若干ちょっとプリプリしている感じが全くなくなって、本当に楽しそうに話すんだよね。やあ、喜んでもらえるのは嬉しいけどさ、一体何の変化なんだろ。


 「じゃあ、蒼さんはこのまま北海道に残って良いんですよね」


 僕の尋ねるその答えは、僕ではなく、おばあさんは蒼さんに言うんだ。


 「確かに、約定は果たされた、次の段階だよ蒼」


 その言葉を聞いた蒼さんは、今までの暗い表情しか見たことがなかった僕にとってとても新鮮な表情だった。


 口を大きく開けて、驚いている。何だろう、不意にもらったプレゼントが自分が前から欲しかった物だった、って感じの顔? なのかな、良くわからない。


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