第141話【その存在感はエルダー、ハイエイシェント以上??】
よく考えたら、僕は春夏さんの事をあまり知らないや、というか何も知らないんだな、って事を改めて思い出した。まあ、それを言えば角田さんや桃井くんの事だってあまり知らないんだよね。
不思議と気にならないんだ。そのうちきっと自分たちから話してくれるし教ええてくれるって思うから、こういうのって土地柄かなあ、北海道の人間ってあまり他人に深入りしようとはしない傾向にあるんだよなあ、もちろんそれは薄情って意味じゃな行くて、人にはいろんな事情があるじゃ無い。
だからこっちの好奇心や都合で、根掘り葉掘り聞いたりする人っていないんだよね、気にしないって言うか、大らかって言うか、そういところって、ほかの地方の人から見たら冷たいって思われるかもしれないけど、僕はそう言う土地柄っていうか人柄って結構気に入っているんだよね。
こう言うのって開拓民の血なのかもしれないね。
だからダンジョンがあっても上手くやっていけるんだと思う。
もしかして、そう考えると、このダンジョンって、北海道って土地柄を狙って出現しているのかもしれないね。そんな気がしてならない。
「さて、坊、始めようかね」
「もう一度確認しますけど、ここであなたを倒したら蒼さんは、ここに残って良いんですよね?」
おばあさんはニタリって笑って、
「好きにするが良いさ、そん時は坊、全部、あんたの預かりで良いよ」
って答えてくれた。
よおし、っと思って、気がついた事を聞いてみる。
「あ、死んだり殺したりはダメですよ」
ちょっと慌てて言ってしまう。そんな僕に、おばあさんはケラケラ笑って、
「ああ、そうだね、死んだり、殺したりはいけないね」
と同意してくれた。ああ、良かった。そんな殺伐とした戦いなんて蒼さんの親族としたくは無いもんね。そんな言葉を聞いて春夏さんに捕縛されている蒼さんホッとしているようだった、そしてなんとなく腑に落ちないって顔もしていた。
「じゃあ、始めるよ、一回勝負だ、恨みっこ無しだよ」
おばあさんはその細い杖を構える。
正眼の構えよりも若干下なとってもゆるい姿勢。
僕の目にその杖の先が見えて、まっすぐ伸ばされたそれは、点にしか見えない。
ここは、千歳空港の発着ゲートの前の長椅子が立ち並ぶ待合所。
そこで、僕とおばあさんは、今まさに雌雄を決しようとしてる。
妙に静かだった。
人の足音も聞こえない。
みんな静かにしてくれているのかなあ、って思うくらいの静寂に包まれている。
それにしても、このおばあちゃんの構え、なんかとても整然として無駄がなく、とことんまで研ぎすまされた、言うなら、老舗の様な雰囲気と言うか、美しさがある。
何1つずらしても僕の目の前にある絶妙なバランスで存在するこの姿った成り立たないきがするんだ。
北藤さんと戦っていた時もそう思ったけど、やっぱり『構え』って大切なんだろうなあ、って思った。その辺の事については母さん何も教えてくれなかったからなあ。
そこまで考えて、今、僕の中にある何かを否定する物は、確実に僕を攻撃するために形作られた物だって事を思い出した。いかん、集中、集中。
そんな僕の集中力は、その眼の前に、晒された杖の先っちょに集中する。
なんだろう、剣で攻撃されるって気がしない。
もちろん剣でなくて、杖なんだけどさ、そう言う事じゃなくて、なんだろう、剣系とは全く異なる攻撃が頭に入って浮かぶ。ああそうか、この杖、僕にとっては弾丸、つまりはブリット、早い話が銃口を向けられているみたいな感じがするんだ。
もう、本当にいつ、バン!って撃たれそうな感じ。
たぶん、だけど、このおばあさん、この杖で人を殺せる人だなあ、って分かるよ。感じる。多分、中階層までだけど、今まで会ったどのモンスターよりもヤバイ感じが半端ない。こんな小さいおばあちゃんが、エルダーのラミアさんみたいに、いやそれ以上に見える感じなんだよ。
あの独特な敵に対する遭遇感覚は無いんだけどね。
多分、このおばあさんは僕を試す、いやからかっているんだろうと思う。
これから解き放たれる、おばさんの、その実力は本物だけどね。