第35話【みんな仲良く金の亡者】
それにしても、結構な人だかりだ。
もう、くんずほぐれす、密集しててひどい有様だ。
日曜のスクランブル交差点くらい人が集まってるけど、全員、一糸乱れずいい感じで、お金の亡者だね。僕もだけど。
みんな一心不乱でお金を追い落としている。
それにても、皆さんとっても準備がいい。
だいたい手にしている武器は箒と塵取りだったりする。中にはハエ叩き持っている人とか、ジョンバ(除雪道具)を振り回している人もいる。なるほど、あれは効率が良いと、当事者であるけど感心してしまえる僕がいる。
特に数人、すごい人がいて、その人たちは文字通り、素手で舞い飛ぶコインを掴み取っている。まさに、『現金つかみ捕り大戦』と言うに相応しい姿だ。今の現状なら『現金はたき落とし大戦』だもの。
それにしても、すごい格好だなあ、両腕に青いポリバケツ(10L)4個を掛けて、それでも足りないのか同じものを腰に4個ぶら下げて、その他にもコンビのビニル袋とかを大量にバケツ同様腰のあたり縛り付けている。頭には変なほっかむりして、目には防塵メガネ、顔にはマスク、そして、やたらとポケットの多い割烹着姿、時折、腰をかがめては、背にさした大きな塵取り(特注?)で落ちたコインをかき集めている。まさに
守銭奴装備、今日この日のために研ぎ澄まされた装備にお金を追い求める卑しい動き。効率の為に人として大切な何かどころか何もかもを捨て去った姿だ。
只者ではないと、思う。
すると、その守銭奴装備の方が、僕の方をじっとみて、
「何やってるべ、アッキー!」
あ、真希さんだった。声を聴いてすぐにわかった。
先週、『スライムの森』でお世話になった、工藤真希さん。女の子がなんてあられもない格好を…
「ほれ、さっさと集めないと、お金はどんどん逃げて行くっしょ、『タイム イズ カネー』って言うべ」
言い方はともかく、意味はあってる。
真希さんって、挨拶も残念だけど、諺とか熟語の類も壊滅的だよね。それでも伝わってくるから不思議だ。
そんな真希さん、ものすごい勢いで1円玉を回収している。あの量だと、偽物と本物の
見分けが大変そうだ。
それにいくら集めても、1円は1円だもんなあ、って思っちゃったら、
「アッキー、1円でもお金はお金だべ、『1円を笑うものは、コンビニのレジであっちゃーあと1円あればチョッキリだったのになあ』って切ない諺があるべ」
いや、真希さん、それ諺と違う、この前どっかのホームセンターでもあったから、至るところで起こっている現実だから。
そしたら、真希さんは、ハッと気がついたように、
「今日稼いだら、ギルドのみんなに『みよしの』で『餃子弁当』を奢るって約束してるべ」
ああ、『みよしの』かあ。
株式会社テンフードサービスが北海道で展開している、餃子とカレーライスを提供する外食チェーン店だね。通称「みよしの」「みよしのぎょうざ」
北海道で、餃子って言ったらここかな。チルドタイプのものは、スーパーとかでも売ってるよ。確か、創業がここの上の狸小路商店街だったね。
なんかダンジョンがニンニク臭くなりそうなくらいの量を買いそうな勢いだよね。
「したら、おやすみアッキー、気合い入れてな」
と、真希さんは、自分の本来の目的を思い出して、硬貨が舞い飛ぶ人々の群れに戻っていった。
美少女なのにな、なんかすごい姿見たけど1ミリのお得感もないけど、がっかり感もないのが不思議だった。
いや、だって真希さんだし。
そう考えると、僕、あの、ギルド長さんに慣れていってるのかなあ、って思いいたる自身を危ういって思ったりもする。
本当に、テレビやネットで広報として出てるイメージが完全に払拭されてる。素の真希さんだって、それはそれで魅力的だけどね。
同時に、僕にとっても優しいし、いいお姉さんなんだけど、どうしてか、危険を感じるって言うか、それも表面的なものじゃなくて、骨の髄から浮き上がってくるイメージがあるんだよなあ。
あんまし、野生のカンとかない僕だけど、これは当たってる気がするんだよ。
あの人に逆らっちゃダメだぞ、って自身が警告を出してるみたいな変な気分なんだよね。
もちろん、真希さんが敵になるなんて、ないない、って、ある筈がないんだよ、って、安穏とそんな風に決めつけている僕だった。
それにさ、今はそんな事を考えてる場合じゃないんだ。
ともかく、硬貨、というかお金、落として拾わないとだよ。
大金を小銭集めて手に入れるんだ!
って、改めて誓いなおす僕だった。
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