第139話【一触即発の空気の中で】
乾いた雑巾に水が沁みて行く様な重く湿った殺意がジワリ、そんな感じで多月さんのおばあさんは、僕との距離を詰めて来た。
身長は僕よりも若干小さい線の細くて、上品な大奥さまって感じなんだけど、僕に向かって来るというか、彼女自身を纏っている雰囲気というのが、もう、ほとんど見た目ほどの柔らかさなんて微塵もない。
打ち付けて来る意思と言うか、必殺の息吹というか、とにかくそんな物を抱えて、じっくりと僕のほうに出て来る。
「お祖母様、お納め下さい」
多月さんが叫ぶんだけど、
「蒼、そこを退きな、私はあなたの後ろにいる坊に用事があるんだ」
「これは、私の問題です、私の家の問題です、彼は関係ないです」
「いいや、もう、これは、多月の家と、この坊の問題になっているんだよ、敗れて引き下がったお前はもう、この話に乗って来ることはできない、邪魔はやめとくれ」
多月さんと、おばあさんは人目も憚らずに声を荒げて言い合う。
なんか、周りにいる人も注目して来ているし、遠くの方から空港の警備員さんとかも駆けつけて来た。あれって空港警察とか言う所謂、空港にいるおまわりさんだよね。
まあ、口論しているだけだし、特になにもないかって思ってはいたけど、僕、剣を携えたままだった、それに、春夏さんも化生切包丁持ってるし、角田さんに至ってはヤンキーで金属バッド持ったままだよ。流石のダンジョンウォーカーも武器携帯とかでも空港内ダメだよね。これはちょっと補導されてしまうかも。
これはちょっとマズいかも。
戦々兢々とする僕だけど、数人来た空港警察官の人たちは、おばあさんとなにやら話た後に、そのまま帰っていってしまった。
あれ?
って顔をする僕を見て、おばあさんは、
「一応はウチも公安には顔は効くんだ、さあ、これで誰にも遠慮することもなくやりあえるってもんだよ」
なんて物騒な事を言い出す。
警官たちは、このおばあさんの言う事を聞いて帰ってしまったんだ。それはそれですごい事だと思うけど、なんか、ふつうの中学生が見るには大人の裏社会の一面って感じで、ちょっとズルいなあ、なんて思ってしまった。
つまりは、このおばあさんは、社会的実力者で、しかもこういった事件事象くらいだったらどうどでもしてし
まえる実行してしまえる人なんだ。
「つまり、坊はそう言う人間を相手にしてしているってわけさ、少しは思い知ったかい?」
って程度良く脅かして来ている見たい。
あはは、無駄無駄、僕、そう言う空気全く読めないから、とくにこのおばあさんを怖いとも思えないし、さて、この状況をどうしたら、多月さんがダンジョンに戻る事が出来る様になるのか考えないとなあ。
一応、簡単な奴は1つある。
物凄く単純で、どストレートなヤツ。
でもな、それじゃあなあ、これ以上敵とか作りたくないしな、行く先々で揉め事起こしてるって思われているのを更に上書きする様なものだから、なるべくは口には出したくはない。
出来るなら穏便にすませたい。
この一触即発の空気の中で、僕の考えることと言えば、帰ったら、ゴブリン鍋でも食べて、風呂入って寝たい。くらいのものだったよ。