第137話【多月さんのおばあちゃん】
空港の雑多な人込みでもわかる五頭山のスキンヘッドに木偶の坊的身長、そして横にはすぐにわかる、多月さんがいた。
いた、多月 蒼さん!!! 間に合った!
多月さんも、目をまん丸にして驚いていた。
「な!」
って、一言発した後、口を金魚見たいなにパクパクさせている。
ああ、いいよ、要件はこちらから言うから。
僕は、スタスタと普通に彼ら2人に近づいて、
「この前の戦いはなかった事にしよう、もしくは、リベンジして僕が負けたって事でいいね」
いい案だと思う。多分、多月さんにも色々と言いたい事もあるのだとは思うけど、黒の猟団の事とかを考えると、これが1番早いと思う。
確かに武人とか格闘技系の人は勝ち負けにこだわってしまうだろうけど、多月さんの組織を考えて上での発案だし、これが1番丸く収まる筈だ。
しかし、どうしてだろう多月さんの顔色が悪い。
「真壁秋殿、なぜここに?」
と言うのは多月さんじゃなくて、五頭さんだ。
「いやあ、ほら、今ダンジョンで黒の猟団のみなさんがひどいことになっているからさ、ここは、多月さんの都合を鑑みて、この案が1番じゃないかって思ってさ」
正気に言おう、勝ち負けなんて僕にはどうでもいい事だ。
すると、多月さんの後ろから声がかかった。
「坊、そりゃあダメだねえ」
多分、坊ってのは僕のことだね。うわ、計画を聞かれてしまったよ。もう多月さんの親族、ここに来てたんだね。
やってしまった感が半端ない。
僕に声をかけた人物は、多月さんと五頭さんの後ろから、ゆるりと姿をあわわせた。
「こんにちわ、坊、あなたのお名前はなんて言うんだい?」
とても上品そうな老婆。おばあさまって感じの人。
和の方面はよくわからないけど、侘び寂びな世界の人って気がする。
お華とか、お茶の大先生な感じだ。
僕よりも若干小柄な体躯で、和装姿。腰とかはしゃんとしているのだけど、細い杖をついて、僕の方に歩いてくる。
あ、名前を聞かれていたので。「真壁秋です、こんにちわ」と答えると、その老婆は、お日様みたいに目を細めてニコニコと笑って、
「ああ、そうか、坊はうちの孫娘を倒した猛者ってわけかい」
既に知っている風に話される。この後、再戦して負けったって事にできるかいささか不安になった。どうあっても丸く収めたい僕としては新たな計画が必要になってしまった。
いいの思いつくかなあ。そんな事を思いつつ肯定しつつも仕方なかったんだ的に話してみる。
「いや、倒したって、それは事故みたいなもので」
あの時の、北藤さんと同じ説明になってしまう。だって、この言い方が1番トゲとかないみたいな言い方だもん、仕方ないんじゃん。
「事故?」
細めた目が一つだけ開いて僕をジロリと見つめる。
鋭い視線。って言うのの上位互換だね、ズドンと来る視線を撃ち放たれる。
でも、僕は頑張る。
「いや、だって、一瞬の出来事だったんだよ、ほんの一瞬」
と、僕は多月さんにそのことに賛同してもらおうと、頷いてもらおうと視線を送った。ああ、逸らされてしまったよ。
そうだよね、出会い頭の事故みたいな斬り合いの上とは言え、自分を瀕死に追い込んだ相手にいい顔なんてできないよね。
こっちは諦めて、今度は五頭さんをみるんだけど、この人、この前のダンジョンで泡吹いて倒れた時よりも青い顔、もう白に近い顔色、自分の足元を見つめちゃったるよ。孤軍奮闘だ。黒の猟団の為にはやって来てたっていうのに、僕に味方はいないらしい。
「ああ、悪にね、坊、自己紹介するよ、私は多月 褐、この子の祖母だ、坊にもわかり言うならおばあちゃんだよ」
僕を見上げてそう言っったって。
本当に小さい。
僕の母よりもまだ、多分、その辺にいる小学校中学年くらいの子供の体躯しかないんじゃないいだろうか?