第136話【ふわっと溶けて染みわたるロイズの生チョコ】
妹を引き取ってくれた薫子さん。
ちょっと僕を見る目に怒った彼女は、ため息と共に力を抜いて、
「まあ、いい、わかった、気をつけて行って来てくれ、後のことは任せて、さっさと終らせて帰ってこいよ」
と言った。
なんか薫子さんは色々考えて心配してくれているみたいだけど、大丈夫だよ、今度は多月さんのそこにいるであろう親族に、に『負けたんだよ』、って言いに行くだけだし、流石に新千歳空港で荒事は起きないから、って言うか起きるはずもないからさ。サクッと行ってサクッと帰って来るよ。
「気をつけて行ってるよ」
と言って僕らは札幌駅に向かった。
途中、椎名さんが。
「ずいぶん、狂王様と賢王様は仲がよろしいようですね」
とか言って来る。
まあ、いっしょに住んでいるからね。そりゃあ、気心も知れて来るってもんだよ、って言いたかったけど、なんだろう、ここで僕の、絞っても1滴か2滴あるか無いかの何かの本能が、ここは流せと命じて来る。なんか独特のきな臭さを感じたんだよ。
だから、
「いや、そんな事はないよ」
と有り体の事を言っておいてから、その後のおかしな会話に巻き込まれずに、スルーできた見たい。それ以上の事は椎名さん言及してこなかった。
さ、先を急ごう。
ひとまず、ここ、大通り4丁目からJR札幌駅に向かって、そこから快速エアポートに乗れは30分くらいで付ける筈、しかも直接新千歳空港ターミナルに乗り付けてくれるから便利こなんだ。
JRだから、運賃無料にはならないけど、まあ、それはいい。
本数も結構な数走っているから、待ち時間とかもそんなに無い。
「着いたら、行っちゃったって事はないよね?」
椎名さんに確認すると、すぐに椎名さんは仲間、多月さんと行動を共にしている人に電話をかけて、確認してもらうと、時間には若干の余裕があるみたいな事を言われたらしい。
じゃあ行って来るよ、って角田さん他3名に言うと、みんなついて来るって。そんなにゾロゾロといかなくても、僕1人いれば事足りるんだけど、まあ、いいか、疲れてるし、何かあったら頼るくらいの気持ちでいいか、と僕らは新千歳空港に急いだ。
快速エアポートに乗っている間はゆっくり休めるかなあ、って思ったんだけど、やっぱりものすごい快適な速さであっという間に新千歳空港に着いてしまって、なんか余計に体が怠くなってしまっている僕がいるよ。
一応はダンジョン出てるからさ、これで本当に終わりってことだけが今の僕を支えているよ。
発着ロビーに向かう僕に、
「秋くん、はい、アーン」
とほぼ、親鳥が近づいて来ている雛のように逆らうことなく反射的に開いた口に、何かとても良いものが放り込まれた。
うわ、甘!
「ロイズの生チョコだよ、今、試食配っていたから貰ったの」
ああ、なんか染み渡るなあ、なんかちょっとだけ疲れが取れた。帰りにもう一個貰って行こうかな、どうやらロイズのお店は4階にあるらしい。
そのまま僕らは出発ロビーに、椎名さんの話だとどうやらこの辺にいるらしい。
早く見つけて、今の黒の猟団の現状と、そしてこれからの事を話さなきゃ、って思っていると、向こうの方が僕を見つけてくれた。
「真壁秋殿!」
と僕を見つけるなりそう叫んだ。
相手は大きいから目立つなあ、僧兵みたいな人、五頭さんだよ、なんかとても驚いているよ。相変わらずいかついなあ、って思ったけど、そんな五頭さんは今日はなかなか素敵な服装だった。
流石にここではTPOをわきまえた服装で、どちらかと言うと、僕らの方が、装備を持ったままって格好でダンジョンから這い出て来て着の身着のままって感じで、飛行機に乗るような、そう言う出で立ちではないよね、だからなんかこの出発ロビーで浮いているって感じで悪目立ちしている感が否めない。だからだろうか、五頭さんの驚きが長い。まだ驚いている。