第132話【滅ぼされた組織の終焉】
一体何を思っての同士討なのだろう? 僕にはこの空間に正気な人なんて誰もいないのではと思うほどの酷い有様だ。もちろん、僕はこの人達の都合とか心情なんて一切知らないからここは黙って見ているしかないよなあ。
もちろん、この組織の綻の原因を作ったのは僕かもだけど、それにしたって、こんな状態なんて責任なんて持てない。
本当にダンジョンで力を極めた人って、モンスターと戦わずに、人と、ダンジョンウォーカー同士で戦うよね。
もしかしたら、このダンジョンで1番厄介な存在って、ほかならない人間なのかもって思ってしまった。そしてその考え方を否定できない自分にゾッとした。
相変わらず、時折、僕らの方にも攻撃の手はやって来るけど、それでも余裕で打ち払えるくらいの、そんな攻撃。彼らもまた、疲れているのか、それとも迷っているのか、その両方か、そんな感じのぶつかり合いを僕は黙っって見詰めていた。
ジーっとそんな室内を見ているよね、ちょっと暗かった部屋の端にも人がいることに気がついたんだ。
何人か、いや何十人か壁を背にして、自分の仲間の行く末とかを見ている人たちがいるんだ。
みんな悲しそうな顔してるなあ。
そして、僕はその中に、椎名さんがいる事に初めて気がついた。
『雷鳴の椎名』って黒の猟団の幹部さんだ。この同士討には参加しないで、その様子を見ているんだよ。
そして、彼女の方は、僕の方にとっくに気がついていた、僕の方を一瞬見た目が、もの凄く悲しそうだったんだ。
ちょっと微笑んでさ、愛想よく僕に微笑みかけてくれるんだけど、その顔からは、自分を抱きしめるみたいな腕からさ、悲しみがダダ漏れしてくるんだよね。
「秋さん、剣なんて抜いて、どうしよってんですか?」
僕の行動に角田さんが尋ねる。
「うん、まあ、止めて来るよ、まだ死人とか出てないみたいだしさ」
以前、僕は例の『王様スキル』って奴を使って、椎名さんを助けた。
そのお陰なのかもしれないけど、こう言う切羽詰まった状態だと、彼女が何を求めて、何を言い出せないでいるのか、ほんのりと僕の心に伝わって来るんだよね。
椎名さんは思っている。
これは仕方のない事だ。
自分達では止められない。
どうしようもない事なんだ。
だから悲しいんだね。
じゃあ、僕が止めるよ。
僕は一気にその無数の黒い渦のいる中心に駆け出る。
その前に、
「春夏さんはいいよ、角田さんも魔法は使わないで」
と言う言葉を残した。
大丈夫、僕1人でいいよ。
ほら、中に入ったら相手の方から掛かって来てくれた。
ひとまずもう一踏ん張り。
目標は、この人たちの持っているま黒いダガーを全部へし折る事。
これだけ疲れている体だけど、不思議に体が動くし、相手もよく見えている感じ、フワフワしてる。
自然に溢れる笑み。
本当に、鼻歌でも歌いたくなっちゃうくらいな変なテンションで、ひとまず、10人のダガーをへし折る僕だった。
ほらほら、来いよ、っていつにない心境な僕だけどさ、いきなり後ろから数人かかってきて、あ、やば、って
思ったら、いつの間にか僕の背中に張り付くように来ていた春夏さんが、軒並みそれを払い斬りして、
「秋くん、危ない事しないで」
って怒られてしまう。
ごめんなさい、助かりました。僕1人で行くよ、って言って置いて何だけどよろしくお願いしますね。