第131話【疲労困憊な僕】
この葛折りなっている第二階段を降りると、角田さんの言う話だと、階層の3割を占める大広間になっているらしく、特に強いモンスターとか出る事もないし、
「任せて」
って言ってる春夏さん1人で対応できるし、魔法スキルが発動可能だから角田さんもいるから、大丈夫だとは思うけどね、その上、ゾンビレッドゴブリンがいるんだから、何があっても平気平気って気ばかり大きくなる。
あれ? いつの間にか桃井君が見当たらない。また、僕の影の中かな? まあいいけど。僕も誰かの影の中に入って移動したいなあ、なんて出来もしないことを考えてしまう僕がいる。
ともかく、今は急ぎたい、ってか疲れてる。
こう言う時だから、特に心配しておかないと、いつもの事を考えると、しつこい様だけど、こう言う時だからこそ何か起きてしまうって事もあるしさ、そう言う目に何度となくあってきたからさ、否が応でも疑い深くなる。
直感みたいな物があるんだよね。
ほんとうに嫌な予感がしている。
顔には出さないけど、後階段を数段と言ったところで、自然に足が用心深くなる。
後三段、後二段、後一段。
地下21階に降り立った僕らは、階段室から出て、ゆっくりと大広間に入って行く。
階段フロア、エレベーターでは魔法は使えないんだ、ってか使えるけど、あまりいい事ないんだって、特に転移タイプの魔法は大きく到達座標がズラされる時があるらしい。
基本、移動系魔法スキルの使用は、室内に入ってから、廊下でもあまり使う人はいないって話らしい。
そして、僕らはその広い室内に入って息を飲んだ。
「こりゃあ…」
思わず声に出すのは角田さんだ。
そして、春夏さんは僕を守るように前に出る。
目の前にあるのは、あの時見た光景だった。
その室内には、あの『黒い渦』、つまり角田さんの言うところの、魔法スキルの効果によって、防御力が極まった人の姿。
それがものすごい数、多分100は軽く超えていると思う。
言うまでもない、間違いなく黒の猟団だ。
その黒い渦たちは、室内に入って来た僕らに明らかに意識を向けて来た。
いやいや、真面目にですか?
確かにさっき、と言うか、このダンジョンに入る時に会った多月さんは『三度僕の前に立つ』って宣言はされたけど、早いよ、もう、僕クタクタだよ。
ちょっと今日はやめとこうよ、と言うのはあまりにも僕の都合だよね、許してくれるわけないよね。
これで何連戦目なんだろう?
「角田さん、なんかこう、元気の出る魔法ってない? 疲れが吹き飛ぶみたいな、ファイト一発的な」
「残念ながら、疲労回復は休むしかないですね、怪我とか病気ではありませんので」
あっさり言われてしまう。仕方ない、もうひと頑張りだね。
僕は疲れた体に鞭打って、敵対者達を見つめた。
すると、黒い渦はお互いにぶつかり会い始めた。
そのうち、何個かこっちに来たけど、それは十分、春夏さん1人で処理できる程度で、その殆どは、まるで同士討ちをするかの様に、互いをぶつかり合って、そのうちに、戦闘の継続ができなくなった者から、徐々に人の形になって、その場に倒れて行く。
バタバタと、その数は決して少なくはないが、この同士討ちの様相はいつ止む様子も無く続いていた。
「どうしたんだろ、これ?」
「さあ、黒の猟団同士の同士討ですかね? 大きな組織だっただけに、終わりが近くなると色々と残念です」
と言うのは桃井くんだった。そういえば、桃井くんてこの組織に狙われていたってのが僕との出会いの始まりだった様な、まあ思うところは色々あるんだろうなあ、って思った。