第126話【こんな時だけど、まだ僕の剣に名前はないんだ】
そうなんだね、へし折られてしまうんだね、剣。僕の剣が折れないのって多分、僕の能力云々じゃなくて、単純にこの剣の性能のおかげだけどね、ダマスカス鋼みたいに見えるなんたとっても高価な技術の集大成らしいこの剣のね。
そろそろこの剣にも名前をつけなきゃって思っているんだけおど今の所、良い名前が思いつかなくて保留にしているんだよね。
ちなみにみんなには案は出してもらっているけど、なんかどれもシックリこない。
角田さんは『名刀 欠伸』とか言ってたなあ、なんでも、以前モンスターを倒した後、ちょっと気が抜けて欠伸しながら何気にこの剣を降った時の流れが1番キレキレだったんだって。
いや、無いでしょ、欠伸って、どんだけ気が抜けてるんだよ、欠伸で切り捨てられるモンスターがかわいそうだよ。
で、春夏さんはなにやら一生懸命に考えたり調べたりしていたらしく、彼女の命名は『妖刀 小春日和』だそうだ。ああ、小春日和って秋の季語だね。この小春日和って単語を見て改めて、僕の印象だって春夏さんはそう思ったんだって、まあ、悪い印象じゃないみたいだけど、ん? どういう意味だろ? とは思ったんだよね。
それに『妖刀』って部分と『小春日和』って名前が壮絶に打ち消しあってるよね、なんかもう刺し違えている感じ。もちろん、春夏さんには「参考にするね」とは言っておいたけど現在も保留にしている。
そして桃井くんは、『北海道迷宮御装飾無蒔絵螺鈿飾長剣』って言ってた。
書き取り練習でもしないと書けない上に読めない上に覚えられないし、長くて言い難く説明しづらい上に聞かれる度にメモとか見ちゃいそうな感じになるから遠慮させてもらった。言った時はドヤ顔の桃井くんだったんだけど、やんわりと断るとしょんぼりしていた、一生懸命に考えてくれたのにちょっと申し訳ないなあって思った。
仕方ない、自分で考えるかって思ってはいるんだけど、みんなに聞いてしまったおかげでハードル上がった感が半端ないんで、このまま保留でいいやとも思っている僕がいるよ。
そんな剣で接近したはいいんだけど、どうしよう。斬ってしまう?
いや、この剣、僕が思う以上に斬れてしまうから、最悪、この距離で振るうと北藤さんに対して致命傷になってしまうなあ。
なんて考えていると、北藤さんが消えた。
じゃない、体の軸をずらして回った、で、僕もそれに巻き込まれてしまう。
「うわあ」
となんだろう、空気に投げられるみたいに吹き飛ばされる。
「チャンスを棒に振りましたな、お優しい狂王殿」
って飛ばされながら、背後から北藤さんの声、なんの!
一生懸命に踏み止まって、北藤さんが予想した地点よりもだいぶ短い距離から戻って来る僕。
「おお」
って北藤さんもこれには驚いていた。
ここでひとまず2閃。駆け抜けざまに剣を振る。狙えない、当たればいいやって言う雑な攻撃、ひとまずは当てないと、まずはそれからだよ。
「ぬお!」
1閃目は北藤さんのグローブみたいな手の平で弾かれるものの、想定内でその流れでもう1閃目はそのまま北藤さんの太い首に迫る。
あ。これ殺っやったかな、って思ったら、
「くぬ!」
と北藤さんは器用にもアゴと胸で僕の剣を挟んで止めた。
見てくれはどうでもこれって真剣白刃取りになるんだろうね。
器用な、でも形的に不気味だ、この人多分、全身で挟めるところなら全部で真剣白刃取りができるんだろうな、目に頼ってこの部位での白刃取りは無理だろう。すごいな、この人。しかも万力に挟まれた様に動かない僕の剣。
おかげで北藤さんと僕の距離はすっかり固定されて、その大きな拳骨が僕に向かって何発か飛んで来る。この距離に怯むと思ったら大間違いだよ、この距離で攻防戦に慣れているのって北藤さんだけじゃないんだよ。