第125話【剣と拳の戯れ】
結局、あれから7、8発いいのを食らってしまって、フラフラの僕がいる。
ミノさん(ミノタウルス)からの連戦を考えれば結構、疲労困憊気味の僕なんだけど、考えてみればモンスターとは僕の半分くらいしか闘っていなかったけど、クソ野郎さんとは結構良い感じの長時間死闘を繰り広げていたので、多分、北藤さんの方が疲れていそうなのだけど、見た感じ元気溌剌なんだよなあ、僕のとの戦いは別腹な感じで御代わり自由な感じだ。流石だな、戦闘中毒集団の代表だよ。喜々として攻めて来るよ。
攻撃範囲が大きすぎて、上手に避けられない上に、同じ面積なら幅や高さを調整できるみたいで、なかなか見切れさせてくれない。
この攻撃方法って、多分魔法と変わないんじゃないかな、でも魔法と違ってそれを防ぐ手立てが簡易に無い分厄介だよ、ピンチだよ。
多分、それなりの攻略方法とかもあるんじゃ無いかって思うんだけど、角田さんあたりは知っているんじゃ無いかって思うけど、チラっと見るけど、かなり余裕な姿で見守ってくれている感じで、薄ら笑いしている。余裕だね、確かに生きるの死ぬのって闘いでは無いからさ、気楽に見ているのはいいんだけど、なんか角田さんて僕が苦労している姿を見ていると、平穏を装うけど唇の端とかがニヤってするんだよね。春夏さんは常にハラハラしてるけどね。ちなみに桃井くんは祈っている。あ『死』とかを司る方向の神様的な何かにはやめてね、祈らないでね。
「結構余裕ですね、秋殿」
僕が後ろを見たりキョロキョロする姿を見て、北藤さんがそんな事を言ってくる。
いやあ、何かこの窮地を脱する方法のヒントでもあればと思ってね。無駄だったけど。
「凄い技で、手も足も出ないなあ、って思ってさ」
素直に言った。
「お褒めに預かり恐悦至極ですな、ですが、未だこの極致にはたどり着いていないのが実情でして、ここは一つ、秋殿にも協力を仰ぎたいと、そう思っております」
つまり実験台になれってことね。ごめんだけど。
それにこの技、平たく冷気をともっなった物理的に当たる結構な衝撃とかなり痛い気合いみたいな奴を飛ばすのって、本当に厄介だよ、多分、範囲全体攻撃にもなるなあ、あの時ゴブリンの大群に使おうとしなかったのは中心に人がいたからだね、その後は桃井くんに活躍の場を取られて機会を失ってしまったけど、その時ちゃんと見えてれば…、いや今と変わないなあ、攻略は無理かな。ほんと、どうしよう。
もちろん、角田さんもアドバイスなんてしてこないよ、この辺は正々堂々とってのが信条らしい。だよねヤンキーの勝負って基本タイマンだよね。
さて、どうしたものか。
多分、北藤さんのあの技、唯一隙があるとしたら、あの平たく広い気弾みたいな物の発射にある程度段取りが
あるってことで、手間がかかるし、発射の瞬間もわかるし概ね突撃するためのタイムラグもなんとなく掴んだ。
でもあの規模の広さで、無色無味無臭なので、大きさがわからないくて、しかも形も自在に変わってくるので、躱すのは難しい。というか無理だと思う。
一回やって見るか、と無茶な事を考えて見る。
多分、物理で僕にぶつかって来るって事はイケると思う。
「では、このまま押し込ませてもらいますぞ」
その言葉を発した後に、北藤さんは再び、平たい冷気、『発寒砲』を連発して来た。
おし!
僕は飛び出す。北藤さんに向かって駆け出した。距離を詰めた事で接触点はずらせるかなって考えたんだ。でも無理みたい、物理干渉可能な状態、つまりぐにゃりと空間が歪む瞬間は僕が前に出て距離を詰めた事でもっと前に起こる、今まさに僕の前の視界が歪む。
この距離も任意で可能みたい、いや、目標物、つまり僕を自動的に感知しているのかな、どちらにせよ思いつきのうちの一つは潰えてしまう。で、この後にリカバリー。
まずは一閃。何も無い何も見えない正面に向かって剣を薙ぎ払う。
ぬとっとした変な切れ味。思った通り、斬れる、この平べったい気弾。
「おお!」
なんでか北藤さんが喜びにも似た驚嘆の声を上げている。いや、今まさに北藤さんの技が破られた瞬間なんだけど、なんか嬉しそうだ。
「この発寒砲を斬った剣は皆、悉くへし折ってきました、これを切断したのは、あの宝、愚王以降、初めてですな、なるほど、これは強敵ですな」
その声はもう僕のすぐそばだった、一気に距離を詰めた、自分の技が見切られているにもかかわらず満面の笑みを浮かべる北藤さんのそのデカい笑顔はもう手の届く距離だ。