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第122話【疾風迅雷、北藤 臣参る!】

 僕の話を聞いた上で北藤さんは言うんだよ。


 「秋殿は良い格闘家です、それはあの者たちを助ける時に、あのゴブリンの大群を前その渦中に飛び込める勇気のある、良い戦士です」


 いや、僕、格闘家でもないし、戦士でもないし。


 「その上で問いたいのです、秋殿はどのような人物かを、それは格闘家として拳と拳を交わせば自ずとわかる筈です」


 「だから、僕は格闘家じゃないって」


 と言うものの北藤さんは全く御構い無しって感じで僕を見つめている。それに僕と北藤さんなら、拳と拳じゃなくて、剣と拳になっちゃうよ、切れちゃうよ、危ないよ。


 さて、どうやってわかってもらおうか、って北藤さんにつたえるべき言葉を選んでいると、


 「私は格闘家ゆえ、言葉では語れません、どうか是非、あなたを叩きのめす機会を与えていただきたい」


 って言い出す。ああ、もうダメだ、これはもう不回避だ。多分僕の言うことなんてこの人一言も理解しないだろう。


 深い深いため息が出た。


 と言うより心を切り替えて肉体のギアを切り上げる為の呼吸みたいな感じかな。


 「おお、秋殿、ありがとうございます」


 「ごめん、みんなちょっと下がってて、できるだけ壁側に、ちょっと闘ってくる」


 「秋様、ご武運を」


 「兄、頑張ってな」


 「秋くん、気をつけて」


 「秋さん、気合ですよ」


 とみんな好き勝手な応援をして、扉のある壁の方に下がってくれた。


 後は、グレートデーモンの巨大な死体とか転がってるけど、それ以外は広くて良い格闘場だよ、天井も高いし。


 「では、まいりましょう」


 そう言って構える北藤さん。

クロスクロスの人たちがいた時の、どちらかと言うと温厚そうな少し軽快な感じはどこにもない、どこ行った石山通さん。本当に別人だ。


 僕に対して右側に開いた感じの構え、僕の顔くらいある大きな両拳の位置はその直線上に僕の顔面を捉えている。浅く腰を落として、やや前傾な姿勢は後ろに下げた右足の一蹴りで、僕と北藤さんの間にいつのまにか生まれていた8〜10m躯体の距離なんて一瞬で潰しそうなそんな雰囲気を醸し出している。


 ああ、この人本当に格闘家だよ。


 ここにきて、僕は今から自分の戦う相手の本来の姿を知った。って言うか気が付いた。ああ、なんで戦うなんて言っちゃったかな。ちょっと後悔している。


 そんな僕に北藤さんは声をかける。


 「秋殿、構えないのですか?」


 言われて気がつく。僕、人に対してどころか、モンスター相手に『構え』たことなんてあったっけ? 気がつくと僕、構えなんてないことに今更ながら気がつく。


 そういえば以前にも似たような事を言われてた気がする。誰だっけ?


 でも、北藤さんって格闘家だから、構えとかないと失礼かなあ、なんて考えてもみる。


 そしてふと思い浮かんだのが春夏さんで、正眼の構えっていうんだっけ、あの姿を思う感じで一応やってみるけどしっくりこない。今日のミノさんを倒した上段の構えにしても、まして下段にしてもなんかダメだ、もともと両手で持つっていうのもしっくりこない。あれ? 僕、剣をどっちの手で持ってたっけ? 確か右利きだから右だったような、あ、でもこの前のアシストは左に持っていたような、どっちだ?


 構えないと格闘家同士の試合って始められないよね、確か相撲でも発気揚揚残ったって始まるもんね。構えなきゃって思うとドンドン自分を見失って行く自分がいるよ。


 オタオタしている僕をみて、流石の北藤さんも、


 「いかがされた秋殿?」


 って声をかけるから、北藤さんが変な事をいうからじゃん、って若干キレ気味に僕は、


 「いや、僕、構えとか無いし、これで普通だし」


 っていつもの(?)普通に立って、右手で剣を持ってダラんとした立ち姿で言う。良いんだ、いつもの自分で、何を飾る必要があったのか。反省だね。


 あたふたが止んだ僕をみて、北藤さんは。


 「これは失礼、いらぬお世話でしたな」


 って言ってくれた。


 そして、


 「では、北藤 臣参る」


 闘いは開始された。


 疾風迅雷。


 あの巨体が風を置き去りにして僕に迫る。あっという間に距離は潰された。良いよ想定内だよ、そのくらいの速度はあると思ってた。

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