第121話【僕の言い分、そっちの捉え方】
この時、僕は当時の事を思い出していた。
鏡海の間のあの場所で僕は敵とか味方とか、モンスターとか人とかの垣根って失って気がするのは否めない。どういうわけかあの時の僕って、そういう考え方をしていなかったって気が付いたんだよ。それがどうしてかって言われるとわからないって答えるしかねいけど、そういう状況だった。
あれ? ちょっと待てよ。
違うな、それって概ね僕の通常の考え方だ。
確かに北藤さんの言う通りだと思う。基本的にモンスターは敵でいいとおもう。でも確かに僕はあの時、あのラミアさんを敵とは感じなかった。
なんだろう、なんか違和感というか、何かに誘導されている感じがしないでも無くない
僕って、極々自然に敵味方の識別をしてる気がする。
原因を思い出して見ようと、黒の猟団がいたから、共通の敵を認識していたから、敵の敵は味方の法則でそんな事を思ってしまったのだろうか?
違うよ、そんな理屈っぽく考えていた訳じゃ無い、僕は本位にあの時たミアさんの窮地に反応していたんだ。助けなきゃって思ったんだ。
桃井くんがいたからって考えられるけど、僕等が桃井くんがラミアさんの体内にいたって知ったのか彼女を助けようとした時以前から、それは彼女を味方する理由にはなら無いだろう。
じゃあ、ラミアっていうモンスターの特有の状態変化とか精神支配でも受けていたのかと言われるとそれも違う。あのラミアさんに限ってそんな事をするはずがない。それはわかる。絶対に無い。
そう考えると、北藤さんの言う通り、合点がいかない。
でも、だからって、あの時の行動とかを悔いているって言われると、そうでもない。よかったって思ってる。だから、もう、こんな言葉しか出ない。
「あれは、良いラミアさんだったんだよ」
すると北藤さんはお声を出して大笑いして、
「さすが、狂王殿、正気で狂っておる」
と笑い続けた。
「秋様…」
なぜか桃井くんだ感動していた。
なぜかって事もないか、桃井くんはあのラミアさんに助けてもらった人だった。きっと関連とかあるんだろうってあの時は思ってたけど、桃井くん自身が言い出さないから僕も忘れてたよ。
良いさ、笑いたければ笑うが良いさ、本当にそう言うしかないからさ、もっと違ういい方もあるんだろうけど、僕の頭じゃそんなに捻った説明とかも出てこないしさ、もう仕方ないじゃん。あれは誰がなんて言っても良いラミアさん。とても善人なラミアさんなの。
僕の中ではもうそれで良い。
だって、僕は忘れないよ。
あの時、切られそうになった僕を庇ってくれたあのラミアさんを。あの冷たい腕と彼女自身の流した冷たい血の匂い。シリカさんを隠してくれたラミアさんを、桃井くんを助ける為に自分のお腹を切れって言ったラミアさんをどうしてただのモンスターだなんて言えるのさ。
あの時の行いで、僕がこのダンジョンの中で何を言われようとも1ミリの後悔もないよ。だから、僕は笑い続ける北藤さんに言ってやったんだ。
「北藤さんにはわからないよ」
あの時、あの場所にしかいなかった人には本当のことなんてわからないさ。
割と強い言葉で僕はそう言いつけると、北藤さんはさらに声を高くして笑って、
「確かに、その通りですな、日がな一日、深い所で修練に明け暮れる私が真実など知る筈もありませんな」
割とあっさり認めたよ。そうそう、素直で良いね、その通りさ噂ってのは尾鰭はらひりほへとか着くからね。
ああ、よかった相互理解できたなあ、なんて安心している僕に、北藤さんはその大きな拳をグイって突きつけて、
「だからこそ、確かめたいのです、いざ」
とか言い出して構えてしまう。
いや、だから、どうして闘うってことになるのさ。
「ええー」
と、あからさまに迷惑そうな顔をして北藤さんを見ると、彼は言う。
「秋殿は、どのような時に闘いますか?」
「そりゃあ、致し方がない時とか? もう戦いを回避できない時とか、部屋付きのモンスターから宝箱を出したい時とかだよ」
わかってくれそうもないけど、一応は細かく説明してみた。
僕はさ、戦ってばかりのダンジョンウォーカーじゃないって、言ってみたんだ。