第32話 【狸小路商店街(裏)現金つかみ取り大戦
現実って辛い。
もう、大儲けじゃん。ウハウハじゃん。稼ぎ放題じゃん。
そんな事を思っていた僕を滅っしてやりたい気分な、この世の厳しさを、自身の甘い考えを否定してやりたい気分。
そんな僕は、今、地下狸小路自由商店街現金掴み取り大会の最中にいた。
ともかく、すごい人。
ともかく、すごい熱気。
とももかく、凄い音に怒声に悲鳴に歓喜に歓声。偶に聞こえる奇声。
それと同じくらいの音で、チャリンチャリンが重なり、轟音みたいに室内に響き渡ってる。
観光シーズンの真っただ中の、札幌駅構内なんてもんじゃなくて、お休みの日の西4丁目のスクランブル交差点並みに人がいて、そんな密度で、みんな舞い飛ぶコインにむかって、それぞれの武器でコインをはたき落としてる。
もう、僕としては人の数と熱気にただただ圧倒されてしまって、いや、ほんとに人って金銭絡んだら本性むき出しになるよね。
自分の、浮ついた気持ちなんて、その圧力の前にぺちゃんこにされてる気分。
そんな気迫に押されて、思わずもがな、人の薄いところまで後退してしまう小市民な僕。
それでも頑張っていた。
そんな僕に角田さんの声が、適格なアドバイスが届く。
「秋さん、そっち行った」
「わかりました!」
って剣と言うか棒を振る僕をあざ笑うように、コインは逃げて行く。
だめだ、本当にからっきしだ。刃物じゃないと体が流れる、力が入らない、斬撃方向と狙うべき接点が見えない。
目はキチンと見えてるってのに、体が追い付かないんじゃ……。
あれ、多分100円玉だ。惜しいい。角田さんにはキチンと見えていて、教えてくれたんだな。
ってそんな折に、悲鳴を上げる春夏さん。
この声と音の反響する場所にあっても、春夏さんの声を聞き逃しはしない僕。
「どうしたの? 大丈夫?」
僕の声に、すぐに返事を返す春夏さんは、たぶん、難し場所に飛んできたであろう、硬貨を弾いたであろうと思われる感じで体制を崩して片膝をついていた。
「大丈夫、倒したと思ったら、反撃が、でも、倒した500円玉!」
と自分の成果をつまんで高々と挙げてそう言った。
あ、500円硬貨だ! 凄いテンションが上がる。いいなあ、500円玉。
コツをつかんだのか、春夏さんは、ダンジョンの為に新調したって言ってた白木の木刀を片手に、綺麗に舞い飛ぶコインたちに挑み始める。
すごいすごい、ガンガン落としている。
しかも、怒涛の様に舞い飛ぶ大量の1円玉の中から、確実に100円、50円を、時に500円を弾き落としている。最初は偶然かなって思ったけど、彼女は確実にそれを狙ってやっているんだ。一体、どんな動体視力してるんだよってくらい狙いは一撃必中だよ。
やっぱスキル持ちは違うなあ、って見とれちゃった。動きに全くの無駄がなくて、一撃一撃が正確無比ってうか、よく当たるよなって言う感じ。
僕の場合は全然ダメ。
特に、相手からの完全な悪意や殺意とかないいと、しかも当たってもたいした事ない攻撃なら、無視してもいいくらいなら、真剣に集中できないから、もう、棒立ちに近くなる。
でも、今日はそんな事を言ってる場合じゃないって、気合は入れてるつもりなんだよ。
春夏さんの足元を見ると、結構、撃ち落とされているコインが落ちている。いいなあ、大金持ちだよ春夏さん。もう、万単位になっているんじゃないかな。
しかし、この空飛ぶ攻撃して来るコイン、かなりの数なんだけど、まるで吹雪のように舞い飛ぶ大量なコインの正体って、概ね1円玉なんだよね。しかも半分くらいが偽物。日本銀行じゃなくて、ダンジョン銀行って書いてある。どこだよダンジョン銀行。もう逆に行って預金したいよ、ダンジョン銀行。
このほとんどを占める1円玉は、概ね1回の攻撃で命を失うようで、動かなくなる。でも500円ともなると、結構な攻撃を加えないとなかなか倒されていはくれない。
事実僕は何度となく逃げれれている。そして彼らの攻撃方法は体当たりで、コインがペッチっと当たって来る。1円くらいだったら、どうと言うことも事もないんだけど、これが500円になると結構痛い。
悪意を持って、コインをペシッてたたきつけられるくらいは痛い。
テンションの下がる痛さなんだよね。
お金でたたかれるって、なんらかの精神攻撃も乗ってそうだよね?
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