第110話【僕はそれを不穏と感じた】
僕は何を忘れていたか今思い出したよ。
今、ここにいない人。うん、思い出した。
ちょっと慌てて行こうかな、って思って移動を開始しようとしたら、
「終わりましたか、秋様、なんか騒がしかったですね」
って僕の陰から、あくびをしながら桃井くんが現れた。
あれ? 桃井くんがいるってことは、角田さんは1人…
今、魔法とか使えないってことだね?
急いだ方がいいね、うん、これは急がなきゃ。
僕らも、脇本さんから角田さんが入った部屋の位置を聞けたから割と単調な道のりだから春夏さんと確認して、彼らの後追うような形でひとまずゴブリンの死体だらけの部屋を後にしようと出発する。
すると、あの銀のローブの人がまだ残っていて、最後に室内を出て行くようだったんだけど、その時、僕にすすっすって近づいて来て、何の意識もなく何となく挨拶でもしとくか、って思っていたら、ちらりとほんの少しだけ横顔を見えそうな、いや、結局顔は見れなかったんだけど、そんな距離で、その人は言った。
「またな、今日花の息子」
僕の事を知っている別れの挨拶。
でも初めて聞いた声だ。…いや、違うかなどっかで聞いたかな? え? 誰??
僕はその時確かに思ったんだ。この僕が、この人にどこかで会った事があるって、どこの誰かもわからないけど、初めて聞いた声だけど、確かにそう思っていた。
ほんの一瞬だけど、その謎の人物に対して、なにか不穏な感じがした。すごく嫌な予感。
気にはなったけど、でも今は、角田さんだよ。
ひとまずこの部屋を出ようと思って、一瞬に考えてしまう。
そういえば、鉾咲さんが言っていたギルドの秘密というか嘘ってやつ、残り2つ聞いてないな。
それを思い出して、ちょっと予感してしまう。
もしかして、あのクロスクロスとかいう団体、やることなすことグダグダなのかな?
それらを含めて今後の関わり方を考えていると、
「何やってるんですか? 秋様、早く行かないと角田様が大変な事に」
って桃井くんに言われる。
確かにそうだけど、そうなんだけど、それ、君が言うんだ……。
この階層、1番奥の部屋、完全に突き当たりのかなり大きなエリアに僕らは急いで向かった。すごい長い一本道だったから迷うことないけど、なかなか距離が長い。
すれ違いざまに、あの銀色の人に言われた事も気になっていた僕は初めて聞いた声って思ってたんだけど以前にどこかで聞いた事あるなあ、って少し引っかかっていた。
それに、その間に桃井くんがずっとゴブリンの死体を見つめていて、時折その死体見てガッカリしたような顔して「これじゃあダメだなあ、体幹が…」と言ってる。何してたんだろう?、って今はともかく角田さんを助けなくては。
グレートデーモンでしょ、知っている知ってる。
あれだよ、悪魔種のモンスターの中でもエルダー級なモンスターで、このクラスになると、一体一体に固有名詞があるって話だね、魔法を使う人間にとっての天敵みたいなやつ。基本的に、悪魔や妖魔系って魔法効きづらいって話だから、そのエルダー級でしょ? もうやばい事この上ないじゃん。
「秋殿、このダンジョンに出る悪魔は人の心を蝕みますぞ」
って、本名 北藤さんは教えてくれた、本当に、森方さんクロスクロスの人たち、最後までちゃんと片付けていけよなあ、なんか放任されたっぽい。
「ほんと、手間ばかりかかりますよね、やになっちゃますよ」
って、あくびしながら桃井くんだ言う。すごいなこの子、まったく悪びれてないよ。
そして、その後ろから、物思いにふけっているって顔して妹が付いてくる、
「エレベーター前で待ってるかい?」
なんて気を使うも、
「いいよ、ダンジョンの方が落ち着くし、今だけかもしれないけど、角田を助けるなら私がいた方がいいよ、もうあの女はいないんだろ?」
と疑心暗鬼の妹が僕に訪ねて来るも、どっちだ、アモンさんか、それとも鉾咲さんか?
「2人とも怖かったからね」
って言ったら、
「マモンはいい人だよ、でかいのは最悪、もう会いたくない」
そうきっぱりと言い切っていた。
「今度も秋くん、先行する?」
ああ、そうか、僕、あのゴブリンの部屋では飛び出してしまったからんね。春夏さんがそんな事を訪ねて来る。
初撃は春夏さんの侍の斬撃はかなり有効だよね、魔法の効きづらいグレードデーモンならなおさらだよね。基本、僕の攻撃って無機質だからね、淡白な感じなんだよね。
侍の一撃って、その刃に『必中の殺意』ってのが確実に乗る。これって自分で食らうまでわからなかったけど、本当に防御してもその刃が体を刻む感じ。
あの葉山さんと春夏さんんの攻防に巻き込まれてやりあった時、一度受けたけど、体から力を奪われつ感じ、膝とかガクガクして、生きてゆく事を諦めてしまいそうな、そんな効果があった。
もう二度と食いたくないけど、あれって、多分意識とか思考とがあるモンスターにはかなり有効だと思った。
多分、動きは止まるからね。まして悪魔種の思考形態は人間にも近いから、かなり有効だよね。
「春夏さんお願いできる?」
「うん、わかった、またお願い」
多分、フォローの事だと思うけど、
「攻撃に集中して、他は任せてオフェンス特攻でオープンになっった春夏さんは僕が守るよ」
ミノさんと同じだよね、そう考えてるけどいいんだよね。
「ありがとう、頑張る」
って、にっこり笑って、ギュンと駆け出す、早、春夏さん早!