第109話【慈愛と破滅の母神 アモン】
僕を散々見つめた鉾咲さんの目は、今度はクソ野郎さんに向けられる。
「あんたの弟も何も見えないね、その卑怯な武器や装備に飾られた偽りの王様ってところじゃないのかな」
売り言葉が買い言葉状態になってる。でも旗色の悪いのは鉾咲さんのようだ、アモンさんは、どんどん言葉を叩きつける。
「あなたが手に入れた力はスキルではありません、器として、かろうじて水がこぼれない程度の脆い人の肉体では、人を計る事すらその程度です」
ジッと見つめる何もかもを透き通すような視線に晒されて鉾咲さんは、まるで自分の身を守るようにその長い腕を自身の体に巻きつけた。そして、
「それでも、僕には、僕らには必要だったんだよ、それともお祈りしたら助けてくれるのかな、三柱神 『慈愛と破滅の母神 マモン』様、あ、弟さんに準じて『アモン様』の方がいいかな?」
?! 今、三柱神って言った????
アモンさんって、神様だったの? 一体どう言うこと?????
「え? なに? どういうこと?」
って一人で取り乱しつつも声を上げてしまう僕。
するとアモンさっは、一旦鉾咲さんとの会話を打ち切って、
「ちょっとごめんなさい、そこ、うるさい」
と怒られてしまう。今はこの2人の話合いに入っちゃ駄目みたい。ちょっと待ってよう。
そして、再び会話は元に戻って、このとりとめのない言い合いの中にあって、僕は何故か鉾咲さんの言葉が本当に救いを求めているように感じてしまう。そんな空気を含んだ言葉に感じたんだ。
「あなたは救われませんよ、もうすでに罰は受けているではありませんか」
そうアモンさんは言った。
ちょっと待って、もう思考が追いつかないよ、アモンさんて、神様なの? 前から只者ではないとは思っていたけど、いやいや、神様って、確かにさ、このダンジョンいは三柱神っていうのが深階層にいるらしいんだけど、え? まじ?本人ってか本神?
じゃあ、クソ野郎さんて、常に神様と一緒にいる王様って事?
「あの!」
って思念錯綜の末に声をかける僕なんだけど、
「アモン、そこまでにしておけ、構うな、俺たちはやるべきことをする、これ以上は時間の無駄だ」
クソ野郎さんが2人の会話を遮って、
「深階層の召喚塔は、すでに処置しています、これ以上、ここに階層を無視したモンスターの召喚は行われません」
と森方さんがアモンさんに謝っている。
「すいません、まさかこんなことになるとは思わなかったんです、軽い気持ちでした」
と謝り続ける。
「ほら、八瀬も謝って、僕らがしでかしたことだよ、この人たちがいたからよかったけど、助けてもらえなかったらどうなっていたことかわからないよ」
頭を下げ続ける森方さんを見て、さすがに悪いと思っているのかそうでもないのか、ひとまず、鉾咲さんは頭を下げて、
「どうもすいませんでした」
ブスッとして言った。いや、鉾咲さんがブスって意味じゃないよ、そう言う表情で言ったんだよ。
「お前らの言う事なんて当てになるかよ、アモン、確認に行くそ」
とクソ野郎さんは僕らの方なんて見もせずにアモンさんとともに部屋を出て言ってしまう。ほら、僕達他人って設定だから。
クロスクロスも撤収の準備かな、ちょっと動きが出てる。
で、鉾咲さんが、
「君たち、ありがとう、このお礼は必ずさせてもらうね、僕らも怪我して人たちを運んで行かないといけないからね、例えクロスクロスを解雇した人だって、ダンジョンを出るまでは僕らに責任があるからね」
え? 原因はあなた達ですよね、他人事?って思わず突っ込こもうとしたら、去り際に鉾咲さんが、
「今度、ちゃんと話をしようね、君はきっと、多分、なんとなく、いい感じなんだよ、また誘うから」
と言ってから、ちょっと考え込むようなふりして天井を見上げて、
「あ、後始末お願いするね」
って行ってしまった。
なんか一応の決着はついたのかなあ、って思って、何にか忘れているなあ、ん? 後始末ってなんだろ? もう召喚塔の問題は解決したって言ったから、これ以上のモンスターは居ない筈だよねえ、って思いつつ、本当に去り際に、脇本さんが、戻ってきて、
「言い忘れてたけど、確か君の仲間の1人がグレートデーモン(エルダー級)との部屋に入って行った、私たちも一緒にと言ったのだが足手まといだから来るなって言われて遠慮してしまった。確かあのモンスター、魔法の完全防護できるはずだから、ちょっと心配していたんだ」
とか言い残して行ってしまった。