第107話【クロスクロス団長 森方協十】
クロスクロス‥…。
戦闘能力はどうあれ、それなりの規律はあるみたいで、達せられた命令には言い返すことなく黙って服していた。
でも、このチャラいノッポのお姉さん、本当に偉い人みたいだね。神嶋さんも脇本さんも、一言も言い返さないからね。
そんな彼らの元に、今度はまた異なる重い足音が響いてくる。
「ああ、ようやく来たね、協十」
その言葉に、入り口の方に正対する神嶋さんと脇本さん。
正面を見据えたまま、その人物はまさにこの室内、まるでゴブリンの王国を打倒した兵士を見つめる君主の様に、僕らを見渡し、威風堂々と征服を完する王の様に入場して来た。
うお、なんかキラッキラだ。
多分、鉾咲さんと同じグレードのプレートメイル、ちょっと肩のあたりに飾りが付いている程度の違いはあるけど、ほとんど一緒、例の十字架も2つ、1つは斜めについてるのも一緒だった。鉾咲さんの横に並ぶんだけど、鉾咲さんよりも背高いよ。多分、角田さんよりも大きいんじゃないかな。それに、僕の心に秘めた、僕が今まで見たことがあるイケメンランキングでは、あの顔だけは良かった、イケメン長身乱暴者さんほら、初めてダンジョンに入る日に邪魔してくれた大学生さんで札雷館の人、確か名前は…、ああ忘れちゃったな、まあそう言う人なんだけど、その人は本日、この時点で、2位に降格が決まってしまった。あとで教えてあげないと。
それにしても、男の僕から見てもかっこいいなあ。
「どうだい、うちの団長はかっこいいだろ」
って、鉾咲さんがさっきの口調に戻って自慢げに言った。うん、ほんと、かっこいいね。確かにね。鉾咲さんて、オフィシャルとプライベートを割と使い分ける人なんだね、同じクロスクロスの隊員と僕らに対する態度とか口調がまるで違う。なんかやりにくいなあ。
ひとまず、見た目に感心してる僕に、
「君たちが協力者かい?」
うお、イケメンは声もイケメンですか? なんか、穏やかな口調で、普通に笑顔で話しかけてくれるのに、恐縮してしまう僕がいる。
「どうも、ありがとう、私は、森方 協十です、このできたばかりのクロスクロスの団長をしています」
と普通の流れで握手とかされる。すごい、本当に自然の流れだ。逆らえない。逆らおうとも思わないけど。
あれ? なんだろう?
もう1人いる。
僕は直感的にそう思った。だから、彼、今自己紹介してくれた森方さんの背後に異様な気配を感じて思わず視線を走らせてしまう。
今、春夏さんに近づいて、握手をしているそんな彼によりそうようにもう1人の人物がいる。その人物は、僕の視線に気がついた様で、不自然に森方さんの死角に入るのをやめて、鉾咲さんの傍らに立つ。どうやら僕が見ている事を完全に意識したみたい。
この人、頭までスッポリと被るタイプのローブを纏ってる。
そのローブの初めて目に入ってきた時には灰色に見えたんだけど、なんだろう、光の角度によっては銀色に見えるなあ、でも顔とか見えない。
鉾咲さんも、森方さんもかなり背の高い人なんで、見た目に小さく見えるけど、多分、僕と同じか少し大きいくらい。それでもなんか雰囲気のある人だなあ、って思うのと同時にどこかで会った事がある様なない様な、どっちだろ? 変な既視感があった。
そして、その目深くかぶったフードの中の目は僕の方をじっと見ている感じがした。
気持ち悪いっていうか、本当に、誰だろ?って思っていると、森方さんの自己紹介はどんどん進んでいて、しがみついている妹を諦めて、微笑みつつスルーして、憮然としているクソ野郎さんの方に行った。森方さんはこの槍を持って憮然としている人物の正体を知らないのかなあ、って心配してたら、
「これは、王ですか、初めまして、愚王さんですね、悪名は常々伺っていますよ」
撫然としてるクソ野郎さんに対して、団長さんの輝かんばかりの笑顔。
ホント、裏表とかなさそうな人だって思た。表面だけが全てって、感じで警戒かとか持てない人物ってのは初めてだったよ。