第106話【クロスクロス撤収】
あと、札幌市内でキタキツネとか普通に出会うことがあるけど、絶対に触らないようにね、エキノコックスって人間にも感染する寄生虫とか持っているから、生水も絶対に飲まないようにね。それはさて置き。
一方、鉾咲さんはなんとか妹をなつかせようと必死だ。
しかし、妹は僕の足にしがみついて、一切、鉾咲さんの方を向こうとはしなかった。
「あらら、嫌われちゃったよ、お姉さん大きいけど怖くないよぉ」
そう言って手を振るが妹は僕にしがみついて鉾咲さんの方を見ようともしない。
「ちぇ、ダメかあ、僕、どう言う訳か子供に好かれないんだよなあ」
それ、なんとなくわかる気がする。僕が子供だったら絶対に近づかない。
鉾咲さんは、ひとまず諦めて僕から離れてくれた。妹は初対面の人に人見知りするような子ではないと思っていたから意外だった。ほら、見た目にいかつくて怖そうな石山さんとかに向かって、平気でゴリラ呼ばわりできる強い子だと思っていたからちょっと驚いた。
そしていつのまにか下がって僕と鉾咲さんとは距離をとっていた春香さんが来て、再び妹の頭を撫で始めたころ妹の震えも、やたらと強いしがみ付きも、変な震えも無くなっていたから、人によるのかなあ、とか思う僕だった。
そうこうしているうちに、プレートメイルを着込んだ人の独特な足音が複数聞こえて来て、正面の扉から、つまりは鉾咲さんが入って来た扉から、あのクロスクロスの小隊長さん2名、神嶋さんと脇本さんが入って来た。よかった、無事に終わったみたいだね、ところで角田さんとか大丈夫だろうか? 戦力的に未知数だけど桃井くんも一緒だし心配はないとは思うけど。
「副長、すいません、今到着です」
と神嶋さんが言った。
「行方不明者は?」
おっと、口調がさっきまでと全く違うそ、鉾咲さん。なんかよそ行きな声だ。
「他の部屋では確認できませんでした」
脇本さんが簡潔に報告する。なんか、さっきまでの鉾咲さんとはまた違った、統括副団長としての一面なんだろうな、な感じのやりとりが見られる。関心してしまう僕がいる。
「確認できませんでした、他の部屋を当たります」
と脇本さんが言うと、そのまま神嶋さんときびを返して、部屋を出てゆこうとする。
「待て待て、よく部屋を見てみろ」
と鉾咲さんが、今までにはないくらいイラッとしてそう怒鳴るように言った。
足を止めて、言われてように室内をくまなく見渡す神嶋さんに脇本さん。ようやくアモンさんによって回復され、寝かされている2人のクロスクロス隊員に目が行く。
「浅井! 藤巻!」
叫んで、駆け寄る神嶋さん、
「生きてるんですか?」
とアモンさんに尋ねる神嶋さんだ。
「ええ、すでに傷は治療済みです、精神的な疲労で今は休んでいます、起きれば自分で歩けます」
と答えていた。
僕から見てもわかる、2人。神嶋さんと脇本さんから伝わってくる安堵感、良かったね。これで全員の無事が確認された訳だね。
「1番隊並びに2番隊、そして、負傷によって3番隊長は欠のために、兼任にて1番隊長に口達、現在、戦闘領域を離れて、避難している隊員、並びに戦闘継続不能となった隊員は、全員解雇、これを持って本作戦は終了する」
よくわかんないけど、厳しいお達しが命ぜられたようだ。
でも、鉾咲さんの気持ちはわからないでもないかな、あれならちょっと危険かもね、ちょっと力足らずかも、と言っても、ここでゴブリン相手に孤軍奮闘していた2人はちょっと可哀想かな、みんなを逃したのか、それとも逃げてしまって1人戦ってあの状態になってしまったかはわからないけど、頑張っていた感じはする。意識を失いながらも、もう1人の隊員を心配していたしね。