第104話【スキル発現の条件】
確か、スキル『メディック』って言ってた、あの時、あのヒーラースキルの中でも特殊な能力があのタイミングで発現しなかったら僕は危なかったらしい。そう考えると、彼女こそ僕の命の恩人だよ。
「その覚醒条件ってのがあるんだよ、まあ、今日は多分実入りがなかったと思うけどね、残念ながら」
ここにいた逃げたり倒されたりのクロスクロスの廉価盤な鎧の人たちの事に関わりがあるような言い方だった。
「こんな言葉を聞いたことないかい? 『求めよさらば与えられん』とかさ」
ごめんんさい聞いたことない。けど意味はなんとなくわかる、欲しかったら求めろってことだよね。
「つまり欲しいからもらえるって事ですか?」
「そうそう、でも欲しがるには、切ない条件があるんだよ」
??? 本当にわからない。そんなんで欲しくて貰えるなら、ダンジョンウォーカーは皆スキル持ちになるよ。
「それはね、強く願う事、どうしようもなく欲しがる事」
「それはそうでしょう」
となんかもったいつけるなこの鉾咲さんは、と思って突っ込んでしまうと、彼女は言ったんだよ、普通に当たり前に、こう言った。
「簡単だよ、死ぬような目にあうんだよ、ってか死ぬって状況下を理解できる環境に陥るのさ」
そう、鉾咲さんは言った。そしてゾッとするような笑顔を見せて、
「でさ、その条件って、幼ければ幼いほど覚醒確率が上がるし、目覚めたスキルは強大な物になるそうなんだよ、そうだよ、その子もそうなんだろ? 隠すな隠すなって、悪党だなあ君も」
何か勘違いしているみたい。
「違いますよ、彼女は僕のパーティーメンバーですよ」
「本当に?」
「はい、至って普通に仲間ですよ、ダンジョンを楽しむための」
「へー、あくまでしらを切るんだ、まあ良いけどね、僕には関係ないしね、それに僕らは今回は失敗だよ大失敗」
鉾咲さんのその言葉に、その表情。この事態が、状況が掴めて来た。階層にそぐわないモンスターに、低い戦闘スキルで叩きに挑んで倒されまくっている人達。そう言う事なんだ、
「じゃあ、これって、もしかして」
と尋ねる僕に、
「そうしようとしてそうなるとは限らないけどね、起点を作ったのは僕らだよ」
「完全に手に余ってましたよ」
「そうだね、もうちょっと頑張れるって思っていたけど、副団長としてはガッカリだよ」
僕の批難の視線なんてどこ吹く風でケラケラ笑っている鉾咲さん。
「たまたま、あの強い人達と、僕らがそこそこできたらよかったけど、そうじゃなかったらどうしてたんですか?」
あの人たちって、クソ野郎さんたちね、ほら僕ら知り合いじゃないって程で話しているからさ、一応は知らない人扱いしておく。
で、この現状に流石の僕も呆れてしまった。この階層について、逃げ惑う人、対応しきれない人、倒されてしまった人たちを見て、その後ゆっくりとノコノコ現れた鉾咲さんを見てげんなりしてしまった。どこのブラック企業だよ、で、どこの無責任管理職だよこの人。
つまり、このクロスクロスの窮地は自ら作り上げた状況だったんだ。
「酷いことするなあ」
って素直に、鉾咲さんに言ってしまった。
そんな僕の言葉にも鉾咲さんは笑い、
「まあ、結果オーライ、君たちと出会えたからね、君も僕みたいな人と出会えてラッキーだったでしょ?、今はそんな事思えないもだけどいつかそう思う日が来るからさ」
「いいえ、ちょっと疑ってしまいますね、常識と良識とか無なさそうで」
さらに大笑いして鉾咲さんは、僕の背をバンバン叩いて、
「君もはっきりと言うねえ、そうなんだよ、僕、悪い人なんだ、仲良くしようね」
無理です。と言う冷たい目で見ていると、ちょっと笑いすぎに息を切らしながら、
「残念だけど、今回は『当り』は出なかったみたいだけどね、3小隊でみんなスカかあ、君ももう少し遅く来ていれば、もしかしたら、何かしらの強力なスキルに目覚めていたかもしれないよ、この2部屋にいたゴブリンの大群はそこの前住先輩たちが倒してしまったみたいだけどね、ほんと、余計なことするよね」
多分、鉾咲さん、この2部屋分のゴブリンは全部クソ野郎さん達が倒したと思っているみたい。
ここで倒されてた人、逃げていた人って、これから強くなるどころか、多分トラウマになると思う。あのミノさんもそうだけど、普通に大きいモンスター、数の多いモンスターとか、普通は初見では逃げるよ。
わざわざ挑んて行く意味がないモノ。
そう僕は思ったよ。