第100話【ギルドは欺き嘘つく】
鉾咲さんのそんな言葉に答えたのは僕ではなく、クソ野郎さんだった。
「ヘボ弱い組織だもんな、そりゃあ強い奴を入れたいよな、ここにいたやつやはミノタウロスの大きさに完全にビビって逃げ回ってたぜ」
すると、鉾咲さんは、頭を抑えるといったフザけたパフォーマンスをして、
「あ痛たた、これは厳しい」
と辛そうな表情になって言った。
「今のこの集団なら、せいぜい中階層の地下10階くらいがギリだろ、こんな実力で、黒の猟団の穴を埋めようってかよ、冗談きついぜ」
クソ野郎さんも、中々遠慮の無い言い方をするよね、負けてないな、鉾咲さんに。
「いやいや、先輩、いじめないで下さいよ、今、絶賛組織を強化月間なんですから、僕たちは強くなりますよ、あのギルドを超えるくらいに、超強くなる予定なんですよ、なんならあなたもいかがですか前住宝さん、歓迎しますよ、ブラコンなお姉さんも是非」
おお、鉾咲さん、ちゃんとクソ野郎さんとアモンさんの事を知っていたんだ。
「嫌なこった」
クソ野郎さんはそんな冷たい返事をして、アモンさんが、
「お伺いしますが、『神殺し』を行ったのは、この組織ですか?」
すると、鉾咲さんは、両手を広げて、
「答える必要はないでしょ、特に禁止されていることでも無いし、過去に置いて行われ たって話もあるから、このダンジョンに置いて、三柱神は、一応モンスターと同じ扱いですよじゃあ倒してしかるべきじゃあ無いですか、何いってるんですか、笑える」
なんだろう、鉾咲さんの顔が強ばんでる。で、こっちもちょっと異常な事態になってた、さっきから、というか鉾咲さんが現れたあたりから妹が僕の足に後ろからしがみついて前に出ようとはしない。今気が付いたけど、異常なほど震えている。
「どうした、妹」
と声をかけるんだけど、「あの女嫌いだ」と小さな声で呟いて、そのまま押し黙った。春夏さんが心配して、妹の頭を撫でている。ちょっとどうしたんだ、妹?
そして、アモンさんの尋問はなおも続いていた。
「そうですか、では『最後の扉』にはたどり着けたのですか?」
底冷えを感じてしまほどの凄い冷たい表情でアモンさんは問い続ける。何もかも貫き通すような目で、ジッっと長身で無礼な女を見つめる。
「ちょっとそんな目で見ないでくださいよ」
ってぎごちなくそれでも、さっきの様に調子の良い口調で話そうとする鉾咲さんだけど、なんか違うよ。目がアモンさんから逃げているんだよ。正確には目を見られない様にしているっていう言い方が正しい。
そんな鉾咲さんの体の内側まで覗き込む様な視線を向けるアモンさんは、なんだろう、少し悲しい顔になって、言うんだよ。
「そうですか、あなた、『資格』を失いましたか…」
その時、その言葉を受けて、鉾咲さんは「だから、どうしたって言うんだよ」って小さな声で呟いていた。負け惜しみみたいに、惨めにそんな風に呟いていたんだ。
そして、気持ちを切り替えて感情のギアを上げて、急に僕の方を見て、
「そんな事どうでも良いよ、それよりさ、君、僕の仲間にならないかな? ほらほら、今なら男の子必見、中階層の秘密ダンジョン、ウッフ〜ンんなあの場所の情報も提供するよ」
何それ? 知りたい。
「おい、ガキにはまだ早いだろ、そんな色物情報で釣んなよ」
よおし、情報の虚偽の可能性は今のクソ野郎さんの発言で裏は取れた。ここは是非話を、と思って、唯ならぬ殺気を感じて、横を見ると、とっても素敵な笑顔の春夏さんがいた。
そんな情報には踊らされないぞ、僕は、ね、これで良いんだよね。春夏さん。
「それに、こいつは多分、ギルド側の人間のはずだぜ、あの真希お気に入りらしいぜ、よくは知らんが」
とクソ野郎さんは適当なことを言ってくれた。
「え? そうなの?」
「ええ。まあ多分、何度かは仕事を頼まれてます」
「ええ本当に?、笑える。なんだよそれ、でも全面的にギルドを信じているわけじゃ無いでしょ? ちょっとは疑ってるんだよね?」
なんて言って食いついて来る。うーん、正直、信じている信じてないではなくて、いろいろお世話になっているっていうのが正しいと思うんだけど、とそれを伝えようとして、色々と言葉を選んでいると、そんな僕を、ギルドに対して猜疑心を持っている様に見えた様で、鉾咲さんは、
「だよね、そうだよ、胡散臭いもんね、ギルド、正しいよ、君は正しい」
となんかとっても高いテンションになって鉾咲さんは言うんだ。
「そうだよ、深階層に行く人ならみんな知ってる。ギルドは嘘をついているんだ、3っつの大嘘、今、僕が教えてあげるよ、君の目を覚ましてあげる」
大嘘だって???
鉾咲さんは、とても綺麗な笑顔で僕に近づいてきて、あの時の脇本さんが春夏さんにした様に僕の手を取って言うんだ。
「本当の北海道ダンジョンの姿を知りたくないかい?」
身長差のせいかな、僕の頭上から優しく語りかける言葉は、天から囁く天使みたいで、もちろん、内容も気になって、僕は耳をすまして、彼女の言葉を聞く。
「ホント、笑える」
最初にそう鉾咲さんは静かに呟くんだ、まるで囁く様に僕の耳元で言葉をコロコロとこぼし始めたんだ。