第96話【剣など投げていません、呼んだだけです】
そんなアモンさんはその辺に落ちている未だ鞘に収まっている、ここに倒せれているゴブリンの持ち物だと思われるショートソードを拾いながら、思い出したように、
「あ、そうだ、あなた、パンツは履いてくださいね、私の隣人が壊れるので迷惑ですから」
と言った。いや、だから履いてるよ、ちゃんと履いてる。毎日普通に履いてるよ、本当に誰が言い出したんだ?
この2人にまでこんな根も葉も無い噂を広めたのって?
一体これはどういう嫌がらせなんだろう?
攻撃なのか?
精神的というか精神衛生上というか、そういうところから僕を攻撃しているのか?
なんらかの情報がこのダンジョンを駆け巡っているにしても、全く関係性が見えない少なくとも、このクソ野郎さんとアモンさんって、ギルド関連とは接触もなさそうで、独自に色々とやっているイメージがある。
いつも2人だし、今日、石山さんが知り合いってことでちょっと驚いているけど、その石山さんから流れた情報じゃ無いみたいだよね、なんか会うのも久しぶりみたいな言い方してたもの。
ちょっと本腰入れて対応して行こうと決意する僕だった。
そんな事を考えていると、アモンさんが、スッと剣を抜くんだよ、拾った剣。鞘から抜き放って、まずは、ジッと刃を見つめているんだよ。うん、ゴブリンの持ち物にしては良く切れそうだね、そして2、3度振ってみて使用感を確認して、なんか納得してた。
何する気だろって思う側から、ビュンって、今まさに戦い合っているクソ野郎さんと石山さんに向かって投げつけるんだよ、クソ野郎さん達にご丁寧に回転を加えながら、ものすごい勢いで抜き身の剣が飛んで行く、正確にはあれは絶対にクソ野郎さんを狙って投げた物だ。顔に向かって飛んで行く。
「うわ、なんだ!」
さすがに戦闘力の高い人だよ、気配とか音とかで察知したようで、ギリギリで避けるクソ野郎さんだ。
ちなみに、外れたショートソードは、その後ろに倒れているゴブリンキングさんの肩のあたりに柄まで刺さって止まってた。
「チィ‥」
え? 今アモンさん、舌打ちした?
「なんだよ、アモン、物騒なモンが飛んできたぞ、お前か?」
「はい、何度もお呼びしましたが気がついてもらえませんでしたので仕方なく」
え? 呼んで無いよね、1回もクソ野郎さんのことなんて呼んでないよ、アモンさん。
「そうか、悪かったよ、でも剣とか投げんなよ危ねーからな、せめて、こん棒か石斧とかにしろよな」
「承知しました」
こん棒も石斧も危なくない? アモンさんも謝ってないし、理解した、って感じだし、なんか前も思ったけど、すごいよね、僕にはこの2人の関係が一体なんなのか全くわからない。こっちは理解できなくていいけど。
「新型の召喚塔の使用目的が解りました、深階層に向かいましょう、すでに使用者の目的は達しているようです、現在行われているのは、残った召喚塔の後始末と言った所でしょう。送信側を深階層で壊してしまえば、それでこの騒ぎは終了になります」
召喚塔????
あ! そうか、僕たちが金色宝箱って言っていた物だ、それが召喚塔なんだ。きっと。
「ったく、人騒がせだよなあ、まあ、それで終いなら良い、悪りぃ臣、今日はここまでだな」
「そうは言われてもな、お前とは今度はいつ会えるかわからんからな、ここで決着をつけたい」
と食い下がる、臣と呼ばれる多分それが本名な石山さんが駄駄を捏ねる格好になる。あの厳つさで、中々女々しい。
「仕方ねーな、じゃあいつもので良いか?」
「おお、助かる」
そう言って、クソ野郎さんと、自称石山さんhは互いに背を向けて、同じタイミングで深くそして早く深呼吸を1つする。なんかガンマン同士の対決を見ているみたいな、そんな緊張感が走っていたよ。