第92話【修羅場だから、この人!】
この奥にもう1つ、金色宝箱が出たって事らしい。そのまま、また彼女は石山さんの背で気を失ったみたい。早く角田さんと合流してこの子の怪我とか治してもらわないとな、と思ったんだけど、もしかしたら、この子みたいに一刻を要するかもしれないし、ここは連戦で行こうかなと、春夏さんと石山さんを見ると、2人は何も言わずにうなづいてくれた。
ちょと天井が低くなっていて、余計に室内が狭くて暗く進めば進むほど息苦しさを感じてしまう。随分と扉が小さい。勝手口って感じかな、普通の家の玄関の方が立派なくらいだね。この手の入り口って、実は裏口でこの扉のついている部屋は他の通路からのアクセスできる扉があるっていうのがこの中階層の常識になっている。
なんとなく、裏口からこっそり入る要領で、静かに扉を開けて中を覗くと、今、僕らがいる部屋より広くて明るい室内が現れる。
多分、こっちの部屋の裏口的な扱いで、こっちがメインな部屋ってことなんだろうか?
まあ問題はそこじゃなくて中の状況なんだけど、簡単に説明すると、中にはこっちの部屋で倒すた同じ数のゴブリンが倒れていた。
そして、その中心に、さっき通路で戦ったミノさんくらいの体格の、多分、ゴブリンかなあ、ちょっと大きすぎるし、なんかゴブリンのくせして立派な鎧を着てる。
それが大量の血を滴り流して仰向けに倒れている。どう見ても死んでる。
そしてその巨大ゴブリンの側に多分、さっきまで捕まっていたと思われる、クロスクロスの人、神嶋さんと同じ立派な鎧だから、きっと隊長クラスなのかな、倒れて動かないでいる。
多分、僕らのいた部屋と同じ事が行われていたんだろうって簡単に想像がつく。
でも、問題はそこじゃない。
問題は、その死屍累々と倒され倒したゴブリン達の中にあって、普通に立っている姿の人間が2人いた。
1人は女性。深い緑の見覚えのあるローブを着込んだメガネの似合う美人さん。
そしてもう1人は、石突きに長く重そうな鎖の付いた禍々しい漆黒の槍を持つ、コバルトブルーのプレートメイルを着込んだ僕と同じくらいの背格好な男の人。
「あ!」
って思わず口にしちゃったら、室内の中心にいた2人は僕の方を見た。そして、
「お、マー坊、なんだよ、お前も来てたのかよ」
と僕の方を見て、とても爽やかな笑顔で言った。
ああ、多分、どんな敵よりもエルダー級より今一番会ってはいけない人って言うか、僕の立場を怪しくする面倒な人に会っちゃったよ。
困ったなあ、って思って、ここはさっくりと3人で倒してしまおうかなあ、なんて不謹慎な事を考えている僕なんだけど、今度は僕1人で戦うって謎の約束させられた事を思い出して、なんとなくだけど石山さんを見ちゃったら、もうそこにはいなかった。
「宝〜!」
と叫び声を、怒号を吐き出して、クロスクロスの女の子を背負ったまま、クソ野郎さんに襲いかかって行っちゃったよ。
そんな背中を見送る僕は、思わす突っ込む。
あんたが行くのかよ。
めんどくさい事になっちゃったなあ。