第84話【エルダーじゃないけど、ミノタウロス戦】
エレベーターの扉が開くと、そこは阿鼻叫喚の 地獄絵の様相、とまでは行かない物の、なかなかどうしての混乱、混濁、混戦の様相だ。
もう、大変。有象無象な感じ、叫び、叫ばれ、追い追われの様相だ。
多分、クロスクロスの人達、ざっと見に2〜30人はいるんだけど、その人達。割と大きめのモンスターに追いかけ回されて、何の規律も法則生もなく、ただ逃げてる。
追うモンスターの方は、多分、
「牛男かあ」
見たまま僕はつぶやいた。身の丈たぶん、4mくらい。すごいマッチョな人の体に、まんま牛の顔、多分ホルスタインじゃない、茶色いやつ、北海道の畜産ですごいこくて美味しいミルクを出す牛に似てる。
そして、その何処かのジムで鍛え上げたような立派なマッチョスタイル、きっと、ライザップとかゴールドジム系だと思うけど、ムキムキの体は同時にテカテカでしかもパンツ一丁だ。逃げ惑うクロスクロスの人達の中には女の子もいるみたいだから、違う意味の悲鳴なのかも。中途半端な大きさなものだから、ちょうど頭の上あたりパンツきちゃうから、ちょっと可哀想かも。
「破廉恥牛男」
と呟くと、
「ミノタウルスですよ秋さん」
と角田さんが教えてくれた。
「僕、ハツの方がいいなあ」
「そのミノではないですね、どちらも美味しいですけどね」
知ってる知ってる、神話の中でも結構ゲスな話だよね、確か。
なんてボケで笑っていると、今度は石山さんが、
「随分と余裕だな、エルダー級と聞いて怖くはないのか?」
なんて、聞いてくるけど、
「いや、あれ、エルダーじゃないでしょ、多分」
と言ってしまった。
「まあ、うちのパーティーには角田さんと桃井くんと言う深階層組みがいますからね、そうだよね角田さん」
「そうです、あのクラスなら、中階層でも深いところには出ますね、単体ですけどね」
「そうなんですか? あのモンスター、エルダーではないのですか?」
脇本さんは驚いて僕らに訊ねて来る。
「あんたたち、出来たばかりの、とっとと深階層に行ってしまった典型的な情報弱者のダンジョンウォーカーだな」
と、手加減なく角田さんは脇本さんに言う。
そうなんだよ、このモンスターを見た瞬間、なんだエルダーじゃないじゃんってわかったんだよね。あの時のラミアさん、僕らに敵対していないとはいえ、もうね存在自体が違うって言うか、醸し出す雰囲気とかがまるで違う。ほら、同じ冬なのに、なんとかなりそうな日とそうじゃない日ってあってさ、もう外出ただけで、今日は本当にヤバイって感じの空気みたいのって、まあ北海道民じゃないとわからないか。
確かにこのハツタウロス、強そうなんだけど、あの凶悪さは皆無。ただのモンスターに見える。この前戦ったベヒモスの足元にも及ばない感じ。ほら、強さって相対的なものだから、このモンスターが強いってよりも、今逃げ回ってるクロスクロスの人たちの方が、なんか、ちょっとね。
この程度なら、この2人、隊長さんたちでなんとかなったのではと思う僕なんだけど、多分、他のダンジョンウォーカー達の安全を優先したんだね、きっと。
それにしても、ここエレベーターを出たばかりの通路のはずなのにモンスターが出ている方に僕は驚いている。もうセオリーとか無くて無茶苦茶だよ。
普通、モンスターって、室内に出ても通路には出ないはずなんだよね。もちろん例外もあるよ、固定のモンスターは通路にも出るけど、それは決まった場所だし、通路まで追いかけて来るのもありえないんだけどね。
まあ、多分、原因はわかっている。
あの金色の宝箱だよ。絶対にあれが影響を及ぼしているのだと思う。
概ね逃げていた人達がほぼエレベーターの中に入って行った。僕らと入れ違いだね。
それでも何人かは戦っていて、相当頑張っているようでその数名はボロボロだ。