第76話【多月 蒼、再び】
一応、薫子さん経由ギルドの見解では、『呪い』とか『状態異常』の一種なのではと言われているらしい。
このダンジョン中でいろんな敵、つまりモンスターとかからとかダンジョンウォーカーのスキルなんかもあるけど、こういう、特に戦闘とか探索に絡まない日常生活に支障を来すものもあるらしいんだよ。
中には存在そのものを消されてしまうってのもあったらしい。
対象者がそのまま消されるってことではないよ、なんかみんなの記憶とか記録からその本人が決まった時間帯で消えてしまうっていうのはある。って話だね。
この前角田さんが言っていた。「1人になりたい時は便利な能力だね」って言ったら半笑いされた。それほど深刻にならないのは、その効果がそれほど長い時間ではないってことで、どんな例もせいぜい本人たちも恐怖はしたものの、どれも大抵はネタ話的なしかも笑い話になっているのかな、ああ、そうか、この前、僕がこの子にイジェクトされて記憶が一瞬だけど飛ばされちゃったような感じなのかもね。
で、結局結論からすると、妹の件は今はこのままで、そのうち時が解決するんじゃないかなって、そう言う結論に達したわけだよ。
そして、今日も僕らは北海道ダンジョンの中にいて、探索を続けている最中という訳なんだ。
今日のメンツは、いつものメンツ。
僕に、春夏さん、角田さん、桃井くんに、この妹という頼り甲斐のあるメンバーで、行き先はさっき角田さんが言っていた場所ってことで、出発したいんだけど、なかなかどうしてエレベーターが来ない。
地下20階まで一気に下がってしまおうと思ってたんだけど、本当に来ない。
ちなみに、僕らと同じようにこのエレベーターを待っている他のダンジョンウォーカーもたくさんいて、多分、100人単位でいる。
まあ、僕らとしては、特に急ぐ用事とかでもないし、いつものスタンスなんで、今日はここで終わりか? って感じでも良いし、そうなら帰りにギルドにでも寄って行こうかな、って考えていた頃、
「なあ、兄」
「何、妹」
「あの女は兄の知り合いか?」
って、僕の後ろ、少し他のダンジョンウォーカーが玉になっている場所を指差して言った。
「兄の顔を見た瞬間にあの女に走った感情は、怒ってない、でも嬉しいわけもない、近づきたくない、でも近くに行きたい、声をかけて欲しい、でも、できれば気づかれたくない、声を聞いてみたい、どうすれば良いかわからない、とうい心境らしい、無視しても良いが、何か哀れを感じたぞ」
そう妹は言った。
僕が言われてむけた視線の先には、あの『蒼き刃』黒の猟団のリーダー、多月 蒼が僕の方、いや、ここは僕だろう。この僕をじっと見つめていた。
この後に及んでと言うか、改めて見ると、彼女ってそんなに大きくない。真希さんくらいの身長と体型。小さすぎるって訳でもないけど、華奢なイメージがある。歳は僕よりも年上で、椎名さんの話によると高校2年生らしいけど、学校には通ってなくて、本格的な冒険者って話だ。
そんな彼女は、例の黒の猟団のローブを纏って人混みに紛れて僕を見つめていたんだ。
まあ、それはね、心当たりはある。
なんて言っても、自分たちの組織を完全に潰してしまった訳だし、それに、ほとんど半殺しにしてしまったのは僕張本人だからね。それは、そう、恨まれるよね。
こう言う場合って、特に言い訳とか、お互い様だよなんて言っても多分、相手に通用なんてしないよね。その辺はよく知ってる。
だから、多月さんが気が済まないって言うんであれば、心ゆくまでお相手しようと思っているんだけど、なんかね、雰囲気が違うんだ。『仇』って感じで見られている訳じゃないみたいなんだよ。
普通に観察されている気分。