第71話【真壁秋、嫁の前に愛妾を作る】
この前例がないからと言って、それを無いことにはできない。現実社会ではあまり通らない考え方だけど、あるものだけを集めて決めつけてしまえるほどこの北海道ダンジョンは甘くは無いってことだよね。
そして、真希さんは続けて言う。
「問題なのは、その宝箱の出現ということだべ、そんなモンスターが中階層の浅いところに出現する以上、ギルドはこれを看過できないべさ、ツギがいうところによるとその宝箱には確かに『人間』の介入の意思を感じたって話だべ」
すると、今まで、お茶をすすって黙っていたツギさんが、
「多分だけどな、あれは誰かがやったごとだ、間違いなぐあの宝箱のトラップには人の意匠があった、ダンジョンのものじゃねえ」
とカ行を濁らせながら言った。
「まあ、深階層のモンスターを中階層にぶっ放すんじゃ、こっちとしても人員を増やさないとなあ、なあ、外注とか人いないべか?」
と真希さんは麻生さんに向かって叫ぶように言う。
「一大勢力だった黒の猟団は真壁氏によって壊滅されてしまったしなあ、あと主だってギルドに協力してくれる冒険者団体といえば、『D&D』『怒羅蘄』の一部と札雷館がらみの少数団体、あと防衛庁がギルドに協力体制を申し込んできている、今回、試してみるか…」
「そういえば、なんか最近できた新しい組織とかなかったべか?」
「ああ、『クロスクロス』か、最近、中階層以下で急速に勢力を伸ばしている団体があったな、ギルドとの提携を提案してくれていた筈だ、いいかもしれないな、黒の旅団が一時とはいえ完全に殲滅されてしまった以上、ダンジョン内の団体勢力の構図も変わって行くかもしれないからな、この辺は注視しておいた方もいいだろう」
壊滅って、ちょっと幹部を含む戦闘員の皆さんの殆どをミディアムレアにして、残った幹部の方達をボコって、最高責任者を意識不明の半殺しにしたくらいで、ちょっと大げさだよね。でもそういわれるとそうかもしれない。
今後、あの黒の猟団の人たちに何かあったら協力しよう。そんな責任の一旦くらいは僕にあるのかもしれない。
重々承知の上責任を感じていると、
「狂王様は気にされないで、これは多分、運命なんです」
と椎名さんはしおらしく言ってくれた。ああ、やっぱ僕の所為なんだ、なんかごめん、いろいろごめん、角田さんにも言っておくからね。
本当に、ま、僕も悪いよでも人数的には角田さんの方が上だよ、殲滅したっての言うのは概ね、角田さんだね、ようし、僕からも言っておくからね。
それにしても椎名さんて、雰囲気変わったよね、最初にあった時がアレだったからね、あの『スキルジャンキー』ってのもあったし、絶対に仲良くはなれない雰囲気を醸し出していたもんね、それに比べると、今は雰囲気も明るい和気あいあいなギルドの本部にいるせいもあるけど、なんか大人な高校生のお姉さんみたいに当たりが柔らかいっているかフアっとしていていい感じになってる。
やっぱダンジョンて人を変えるよね。
そんな好意的な視線を思わず椎名さんに向けてしまう僕だけど、次の言葉が、
「狂王様のなすこと全てが正しいのですから、私たちのことなど捨て置いてくださっていいのですよ」
って危ないこと言い始めた。
「アッキーさ、彼女作る前に愛妾作っちゃってどーすんだよ、これちょっと重症だべ」
と穏やかじゃ無いことを言い出す。
「真壁氏、掌握? いや、『社稷』を使用したのかな?」
ああ、そういえば喜耒さんも同じこと言ってた、そうかも使ったかも。
ひとまず頷くと、麻生さんは『あっちゃー』って顔をして、
「これはまた、ありえないくらい正しい方向に作用したなあ、うちの喜耒女史は無事だといいが」
なんて歯切れの悪い言い方でなぜか喜耒さんまで出してくる。