第64話【鍵師と童女?】
大きな害意。
遭遇感……、なのかな?
何かモンスターでも現れたのかなあ、多分それが一番しっくり来るんだけど、ここ、道で通路で室内って訳じゃないから通常は現れない筈なんだけど、ここ札幌ダンジョンだからさ、何が起こるかなんて僕の想像の範疇なんて軽く飛び越えるからさ、今考えてもどうしようもないので、後で角田さんや真希さんあたりに聞いてみようと思う。忘れなければだけど。
俯いたままの葉山さん。
手を伸ばして起こそうとするんだけど、なんか僕、怖かった。
「大丈夫?」
って声をかけるんだけど、
葉山さんはとても怒った顔をして僕らを見上げて、
「ちょっと真壁くんを誘ったくらいで、いきなり斬りつけるなんて、酷くない?!」
そう怒鳴る。大丈夫、葉山さん怪我ないみたい。元気に怒鳴りつけてる。
ほんと、いきなりだよ、春夏さん、まあ、お互い何事もなくて良かったとは思うけどね。
そして、葉山さんは続けて、
「いつまでくっついてるのよ、やらしい」
と言われる。
あ、僕、春夏さんを抱えたままだった。ごめんごめん。
僕は春夏さんを放した。普通に僕の横に立つ春夏さん。大丈夫、こっちも怪我とかはないみたいだ。
「一体何事かと思ったぞ」
と駆けつけて来た喜耒さんが言う、その後ろには椎名さんだ、なんかびっくりしてるのか目をパチクリさせて、それでも喜耒さんの後ろからついて来ていた。
「だいたい、真壁くんを誘ったのは私じゃないわ、喜耒さんよ」
葉山さんも怒心頭な様子で、とても至極当然もっともな事を言った。
「いや、違うぞ、東雲春夏、私は真壁秋に協力したくてだな、きちんと認識というか、借りとか返そうと思ったんだ」
とかなんか慌てて言い出す。
「ほんとかしら?」
葉山さんは憮然とした態度で言い出す。
そして、
「ああ、確かに私は真壁秋と同行はしたかった、チャンスだとは思った、それは確かだ、ああ、そうか、そうだな、確かに私は真壁秋を利用しようしていたのかもしれない」
なんて、訳のわからない弁解を開始する。
「それは純粋な、協力ではなかったかもしれない」
と、しかし、そんな誰もわからない、なんに対しての告白かわからない喜耒さんではなく、春夏さんは再び葉山さんの方を向いて、
「あなたは、秋くんには手を出さないって、近づかないでって警告はしていたよね」
「なんであなたのそんな忠告を聞かないといけないのよ、そんなの私の勝手じゃない」
「だから、その警告を聞かないあなたを攻撃しても文句を言われる筋合いはないから、絶対に許さないから」
「その『秋くん』本人に邪魔されているんだから、お笑いよね」
「秋くんは何も知らないの、秋くんはいいの」
「ほんと、甘い人ね、神様か仏様か何か? それとも案外あなたが秋くんの女神様な訳?」
そんな言い合いがギャンギャンと続く。
なんか毒気を抜からているのか牙を隠されたのか、角を隠してしまったのか、仲良くいがみ合いの言い会を始めた。もう剣気はどこにもないから安心した。
喜耒さんは喜耒さんで、「いや、でも、そうだな、私は計らずしも確かにこのチャンスを利用して真壁秋に認識を……、それは卑怯な手段だったかもしれない」
とかブツブツ言ってる横では椎名さんが、「賢王、多分、私と一緒に、あなた蚊帳の外よ」と冷静に突っ込んで、そして見つめていた。
「もういい、これ以上話したって、あなたは聞かないから、今、ここで斬り捨てる」
再び化生切包丁を構えようとする。
「嫌だ、助けて真壁くん」
と葉山さんは僕の背に隠れるように駈け寄って来る。
「秋くん、今度は邪魔しないで、お願い!」
必死に訴えかけるんだけど、
「きゃあ、怖い!」
って、葉山さんは後ろで僕の肩を持って、なんとか回り込んでやろうとする春夏さんの執拗な追撃を僕と言う盾でかわし続ける。
さっきとは打って変わって、なんか間抜けな攻防だ。
「もう! 秋くん! 葉山さんを庇わないで!」
遂にキレた、と言うか、あんまり見た事ない苛立ち限界の春夏さんが、遂に僕に文句を言い出す。
「真壁くん、いい加減に彼女を止めてよ! もう!」
僕を挟んで追いかけごっこをする2人。
そして、
「すまん、私は君を利用していたのかもしれない」
とちょっと、どこの辺でなんの事を言っているか意味不な喜耒さんまでも僕にそう言って来る。言うって言うか怒鳴り声に近い、僕の周りで、僕を中心に時計回りで追いかけごっこをする2人の声が大きいものだから、多分そうなったんだと思う。
「ああ、もう、一体なんなの?!」
遂に僕も怒鳴ってしまう。
そして、今度は、新たな6人目の人物まで怒鳴り出した。
「痴話喧嘩なら他所でやってよ!!!!」
突然扉が開いて、顔を出した人物がそう言った。
知らない声に、知らない顔。
突然の登場に、シーンとなる僕たちに、その人物は言う。
「あのね、こっちはこの中で結構、微妙な事をやってるの、だから、色男は、そこのお姉さんたち連れて、もうちょっと奥でやってくれないかな、後数回降りたら、『厭世の奈落』が出て来るからさ、あの辺なら誰も近づかないからさ、そっちでやって、『別れの名所』らしいじゃん」
と、怒りながらも、いいアドバイスくれて、多分、騒ぎの中心だと思われる僕の顔をじっと見ている。
そして、何を思ったのか、口を噤んで僕の顔をジッと見続ける。
じっと見ている。
また見ている。
ん? この人、どっかで? みたいな確信に近づきつつあるような、どうでもいいような記憶を引っ掻い回して何かを思い出そうとする顔をして眉間にしわを寄せている。