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第63話【ここにあるはずのない害悪】

 嫌だ、なんの為だって春夏さんに絶対に攻撃なんてしたくない。


 この背中を傷つけてはダメだ。


 その感情は、もはや罪悪感というよりも、壁に近い突破なんて不能な抵抗だった。


 恐怖ではないし、またプレッシャーとも違うくて、罪悪感というよりも未だ何もしていないのに堪え難い後悔みたいな感情が膨れ上がる。


 ただ、もう泣きたくなってる僕がいる。


 そんな時、明らかな意思が僕に向かって来る。


 それは、「いいよ」だった。


 確かに春夏さんの意思、間違いない、でも、いやそんなはずはと思う僕の着き詰まった疑問を覆いか被すように、「秋くんの好きにしていいんだよ」ってそう僕の迷走する思考と行動の手を引いて前に連れてゆこうとする。


 これは間違いなく春夏さんの意思。


 僕に伝えようとしている彼女の意思だ。


 それが、僕に攻撃の許可をくれたんだ。


 多分、彼女、春夏さんはなんでも許してくれる。


 角田さんみたいに、厳しく放置なんてしないで、僕を甘やかすんだ。


 やっぱり無理、春夏さんを、例え怪我しないようにとか、同級生を守るため、例えどんな大義名分があっても、例えそれが無敵なくらい正しい事だとしても、僕は彼女を攻撃なんてできない。


 なんとか、彼女を引っ張って引き剥がすか、でもその時、化生切包丁は葉山さんのどこかに触れてしまっているから、無事って訳には行かないけど…。


 その時、何かが膨れ上がって、そして出現する。


 僕のプランが煮詰まったところで、突然、誰かが現れたんだ。


 それはまるで、その場の空間を割いて無理やり出てきたような、そんな違和感。瞬時に判断し確認する、人の数は増えてはいない。


 一体何だ?


 「ちぇ、使えねえな、イチャイチャしやがって」


 ものすごい勢いで、その何者かの存在と、そして、僕ら、だろうか? 多分、春夏さんかな、そこに向けられる『害』みたいな酷く強く危険な意思が大きくなって行く。


 僕に聞こえて感じたんだから、春夏さんにもその声は届いて気がついているはず。


 春夏さん、全く気にせず、化生切包丁を斬り下ろす。ってか、さっきより加速してないかな、そして変な声とその人物というか意思みたいなものの登場によって気にしてしまった、何をするにも間に合わなくなる間抜けな僕がいる。


 しまった!


 これ、ちょっとピンチだ。


 色々混ざった。


 思考はオロオロだ。


 気がついたら、僕は春夏さんのお腹のあたりに腕を回して、強引に後方い飛んでいた。


 僕の思考は僕の行動に追いつかない。


 あれ? なんだ? 助けようとしたのは、葉山さんだった筈。


 判断は、葉山さんの危機、だけど、僕の体は春夏さんのピンチを判断したみたい。


 自分のことなのに『みたい』っていうのもおかしな話だけど、でも体がそう動いてしまったんだから仕方ないよ。一応は狙いどうりだし、でも、僕の意思は100%で春夏さんを助ける為に動いていた。


 引き逃げながら振るう春夏さんの化生切包丁は、それでも葉山さんの頭上に迫っていた筈なんだけど、そこで、ガキン!、って金属同士のぶつかり合う激しい音が響く。


 多分、葉山さんだ、でも彼女、金属ってか、それを防ぐような装備を持ってないよ。彼女の纏う黒の鎖帷子が作る音じゃない。間違いなくその音は、刃と刃の打つ音なんだけどな。僕の耳はそれは聞き間違えるはずはないんだ。


 そして化生切包丁が春夏さんの腕ごと上に弾かれ跳ね上がった。


 ああ、確かにあのままこの状態になっていたら、多分、春夏さんの方がやばかった感じだ。後から出した剣が春夏さんの化生切包丁を押して更になぎ払っているんだから、もう後ホンの僅か踏み込んでいたら、斬られていたと思う。攻め込んでいた春夏さんの方が無事じゃあすまない、そんな一撃だった。


 刃同士の当たった音、その刃が刃の上を走る感じに、その長さと方向、間違い無いと思う。


 次の瞬間には、僕は春夏さんを抱きかかえたまま、体を入れ替えて、予想とは全く違う形で、再び春夏さんと葉山さんの間に立っていた。


 そして、ここにきて、一瞬、爆発の様に膨れ上がっていた、誰かの意思みたいな物はなったくなって、僕の目の前には尻餅をついて座ってしまっている葉山さん。そして、その手は、両方とも床について、武器なんてナイフ一本持っていない。


 ほんと、気が抜けるくらい前と同じ空間、室内。


 さっきまでの緊張感なんて嘘みたいになくなっていた。


 なんだったんだ、今の?


 僕は、まるっと周辺を見渡す。


 この状態だと、間違いなく葉山さんが何かをした、って考えるのが妥当な線なんだけど、多分、違うと思う。


 持っている僕らに向けている意識とか、多分、意識とか技量なんてものもまるで別、僅かな一瞬だったけど、人と対峙している気すらしなかったんだから。


 何なんだ? 一体?


 ただ唖然とした僕だったよ。

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