第61話【春夏さん→僕←葉山さん】
なんだろう、ちょっと気の弱い人なら多分意識を刈り取るような、そんな物が体を縦に通り過ぎる。それは、多分、侍のスキルを持つものの特有の斬撃なんなろうか? 多分、普通にこんなの食らったら、抵抗すらする気が無くなるよ。対峙して、生き残る気持ちも無くなるよ。
「秋くん、ダメ、そこから離れて」
いや、ちょっと待って、なんか動けない。春夏さんの攻撃の意思みたいなものを初めてまともに食らって、膝から力抜けているよ僕。ちょっとカクカクしてる。
動けない僕は振り向いて、葉山さんに、「離れて!」って言おうとしたんだ。
あれ?
葉山さん、ちょっと凄い目で春夏さんを見ている。
そりゃあそうだよね、自分を一刀両断にしようとしているんだもん、そんな目で見たくもなるよね。
って、その瞬間に僕の脇あたりから、差し込まれる意識。刃だ。
おっと。
それは絶妙なタイミングで、春夏さんの首のあたりを狙い差し込まれる。
体を流して、刃の腹を押して外側に逃す。
危ないなあ、この子、刃物も持ってたんだ。弓だけじゃなかったんだな、この距離だとこの手のショートソードっぽい武器取り回しが良いから相性良くて相当ヤバい。
「あら?」
と短い声で呟く葉山さん。自分の攻撃が当たらなかった事が意外みたいな表情で僕を見る。そう言っている時に再び、春夏さんの袈裟斬りが来たよ、もう受けるのは危険だ、下がってやり過ごす。
「今のに反応できるのね」
と葉山さんは感心するように言った、言いながら、僕の首あたりから再び春夏さんに向かって、攻撃してゆく、
「と!」
変な声出ちゃった。それを結構カッコ悪い感じで外に向かって剣で弾く。今度は春夏さんの顔を狙ってきた。至近距離からの速い突き、きっと春夏さんなら普通に躱せるかもとかだけど、葉山さん、確実に春夏さんを殺る気満々だ。加減なんて全くない。狙っているところは全部急所じゃん。
「これもダメなんだ」
と、いつもの口調で、さしてがっかりしたようにも聞こえない。そんな葉山さんの口調に感心というか、いつもと変わらないなあ、って僕もお門違いな事を感じていると、春夏さん、さっきの薙ぎった化生切包丁をそのまま振り替えて下から斬り上げてくる。早いなあ、重いなあ、ちょっと剣が間に合わないので、半身ズラして、葉山さんを肩で押すして、化生切包丁の軌道から逃れる。ん? なんか見ての確認はしてないけど、僕の肩、柔らかいのに当たったぞ。
これって? と思わず低い姿勢で葉山さんを見上げると、ちょっと顔が赤い。僕の肩、彼女の胸のあたりにあった、ボヨーンって感じだった。いやいや今はそれどころじゃないぞ僕、考えない考えない。
そんな攻防が数回繰り返される。
春夏さんも、葉山さんも、互い近すぎる距離、そして、僕と言う障害物を見越して、斬りから、突きに主だった攻撃を変更して、相手の急所付近が現れるやいなやものすごい回数の攻撃を繰り返すと言う形になっていた。
僕は彼女たちに間に挟まれて、何度も互いの刃を凌いだり、弾いたり、避けたり避けたり逃げたり逃したりを繰り返す。
「器用なものだな」
なんて喜耒さんが感心して呟いている。いや、そこは助けてよ。ってか見てないでなんとかしてよ。1人どうにかして、どっちでも良いから。
そして葉山さんと春夏さんの顔がものすごい近い距離で僕の横顔を挟んで、
「秋くん、どうして?」
「真壁くん どうして?」
同時に叫ばれる。
いや、どうしてなぜにと言われても…。
その言葉の後にお互いに一旦距離を取る2人だけど、葉山さんは下がりながら、矢を器用に4連射、もちろんそれに当たるような春夏さんでもない、1つが僕の頬をかすめる。
浅いけど、長くてタラってよりダラって頬に血が垂れる。矢の掠めた衝撃と傷が空気に触れているせいもあって割と痛い。まあ大丈夫、行動に差し支えはない、皮膚一枚、滲みるけど大したことない、でもちょっと行動が遅れて彼女達から取り残されてしまう。少し距離を置かれた。変な、人間関係的な意味じゃないよ、物理的な距離って事。
「秋くん!」
「あ!、ごめん真壁くん!」
とさらに連射を続けようとする葉山さんが、春夏さんに詰め寄れられながら謝ってくる。僕に矢が掠めたのって、彼女にして見ても相当不本意だったみたいな、そんな顔をしている。
「よくも秋くんを!」
マジだ、春夏さん。
なんかキレかかってる。春夏さんっていつもは柔和温順なイメージなんだけど敵対するものåに対して全く容赦がなくなる時があって、概ねそんな時の春夏さんの行動の根元には僕がいるってことが多い。つまり、僕原因で怒っているね、その原因である僕の言葉になんて耳も貸さずに、ちょっと矛盾と言うか変な感じだよ。