第60話【春夏さん葉山さん開戦】
いつもの様に、いつもの春夏さんが僕の目の前にいる。
「ごめん、秋くん、…待った?」
ううん、今来た所…。
てか、着いた所。って違うよ、待ってないよ、どうして春夏さんがここにいるの? なんで僕がここにいるのがわかったの?、いやその前に用事は? 色々な疑問が錯綜する中、ようやく出せた言葉が、
「どうして?」
って一言だけだった。ほぼパニック状態だよ僕。
「うん、急いで来たよ、走って」
その様子はわかる、本当に息も絶え絶えって感じだ。
でも聞いているのはそういうことじゃあないんだよね。
「ごめんね、怖い目にあったね、もう大丈夫だから」
って春夏さんは微笑むんだよ。まるでさっきまでの事を見て来たみたいに言うんだよ。
そして、僕の方も、こんな意味不な状態なのに、彼女を見てホッとしているんだよ。
「びっくりしたよ、春夏さん、急に現れるんだから」
春夏さんがいてくれるのって、僕にとってはいい事、喜ばしい事だから大歓迎なんだけど、だから、どうして、とか、何故とか考えなくていいやって思考になってしまっている僕なんだけど、そのことって多分、異常なことなんじゃないかな? 僕は春夏さんに関して全幅の信頼を寄せているのは事実だけど、なんだろう、まるで彼女を疑う事を自身に禁じているような、そんな気さえしている、と言うかその事実に今気がついた。
だって、凄い違和感があって、それは他の人と、多分喜耒さんとか葉山さんとかと一緒にいるから気がついたんじゃないかなって、直感で思った。
でも、ここに春夏さんがいるのがどうしようもなく嬉しい僕がいるんだよ。
一体、なんなんだよ、この状況に思考って、本当にパニクっている僕に春夏さんは言うんだ。呼吸を整えながら、冷静に、いつもの春夏さんで、
「今、この人、斬るから、待っててね」
え?
今何って言ったの春夏さん?
そして、その『斬る』と言われた対象は、僕に言う。
「東雲さん、どうしたのかしら、何か勘違いしてる、真壁くんも誤解だって説明して」
って葉山さんが言う。
ほんと何言ってるんだろう、春夏さん、僕は、
「どうしたのさ、春夏さん、葉山さんだよ、僕と同じクラスの?」
ああ、もう、何がなんだか、
「秋くん、その人はダメ、絶対にダメだから」
そい言えば、かつて、体育館でも同じようなことがあったっけ。流石にあの時は学校だったし、行き違いみたいな感じの言い合いで終わったけど、今度は春夏さんに一切の加減を感じられない、なんかマジだ。
だけどいつもの雰囲気、その僕と一緒にダンジョンに入る春夏さんは、ゆっくりと化生切包丁を抜いて、僕に対峙する、と言うか正確に言うと、いつのまにか僕の後ろに隠れている葉山さんにその厳しい視線を向ける。
「東雲、一体何を? 葉山は…」
と喜耒さんが間に入ろうとする。
「邪魔しないで!」
と春夏さんが言う、静かな声で、怒鳴るように、そして、
「あなたは何も知らないじゃない」
と言った。
喜耒さんは春夏さんの気迫に押され、それ以上は行動も言動も封じられたように動きを止めてしまう。多分、これ、春夏さんのスキル、侍の持つ能力だ。
「ダメだよ、春夏さん!」
春夏さんは本気だ、本気で葉山さんを斬ろうとしてる。
「怖いわ、真壁くん、助けて」
葉山さんは僕の後ろにすっぽりと隠れてそう呟いた。
春夏さん、一体何をそんなに怒っているのだろう? 全くわからない。
でも、この感じはダメだ、全くダメだ。
だって、春夏さんは本気だってのはその真正面からくる春夏さんの意思で分かる、その顔も真剣そのものだし、彼女が今、葉山さんを斬ろうとしているのは、彼女の持つその抜き身の化生切包丁に乗っている意思で分かる。
一体なんなんだよ?
「ほんと、笑える、『真壁に手を出すと東雲が来る』って、本当なのね」
ってボソっと葉山さんが呟く、え? それは何?
と思っていると、凄い一撃が来る。
いつの間にか体を交わして、僕の斜めに、そして、わずかに僕の背中から現れた、と言うか見えるようになった葉山さんの脳天へめがけて化生切包丁が弧を描いて襲いかかる。うわ、これ本気じゃん、普通に唐竹割だよ、一撃必殺、完全に即死な攻撃だよ。ガチで同級生を真っ二つにする気だよ。
ちょっと待ってよ、春夏さん、って言葉も間に合わないよ、僕は重心を変えて、体をズラして再び、葉山さんを背中に隠した。
ハッとする春夏さん、でももう振り下ろす化生切包丁は止まるような速度じゃない。だから、僕もそれを頭上で剣を持って刃を受ける。
ガイン! 見たいな音を立てて、僕の剣と春夏さんの包丁が激突、僕のイメージだと、弾く感じで、だったんだけど、確かにうまく弾けた、でも、
「ぐわわ!」
って思わず叫ぶくらいの衝撃が僕を襲う。
なんだ、これ?
確かに化生切包丁は弾いてその刃自体は退けた。でも、その刃の合わさった瞬間に、そこから放たれた攻撃の意思、みたいな、その斬撃の方向、つまり僕に向かって真下に走ったんだよ。